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攻撃こそが最大の防御

 まだ夕食までに時間があるため、桐谷さん達はプライベートビーチへと写真を撮りに行ってしまった。

 部屋にいるのは、私とお兄様の二人だけだ。


「お兄様」


「ん?」


「お兄様は、先程のヒュームさんのこと、どう思ってらっしゃいますか?」


 攻撃こそ最大の防御ということで、それを実践するべく、お兄様から探りを入れられる前に話を振った。


「どうって、会ったばかりだから何とも……。そういうルナは、どうなんだ?」


 質問を質問で返され、グッと詰まる。


「落ち着いて、誠実そうな方なので、執事としては信頼できるかもしれませんが、ロークス家の気質には合わないかと」


 感じたままを言い、最後に牽制の言葉を無理矢理入れた。


 ――フラグよ、折れろぉー!


 そう念じながら、お兄様を見つめた。


「まぁ、今、ロークスにいる執事達とは雰囲気が違うのは確かだね。あの客船の執事の方が、ロークスにいる執事と近い」


「えぇ」


 私とフィリーオ兄様の見解が一致し、安心した。

 これから言う突拍子もない私の提案(わがまま)の土台ができた。


「……だから、この部屋の専属執事を交代して貰いたいと思って」


「え?」


「ほんの少しの時間を過ごすにしても、ロークスにいる執事と同じ雰囲気の方でないと、不安なんです」


「……ルナ?」


「はい」


「この旅行中に何か不安になることがあった?」


「いいえ、お兄様が一緒なので不安になるようなことは何もありませんが……知らない土地で相容(あいい)れない方がいらしたので、急に不安になってしまっただけです」


 私の機械的で無感情な返事を聞いて、お兄様が考え込んでしまった。


 ――やっぱり不自然すぎた?


 ――でも、お兄様とジンとの接触する機会を出来る限り減らすことしか思いつかない


 考えられる作戦の中で、一番最良の策だと思う。旅自体が「不安だ」と返事をしてしまうと、途中で切り上げてサバンナ地域に直行し、桐谷さんと奈月さんが関係する『グリフォンフラグ』に繋がってしまう。だから、旅は続けたい。

 言葉を慎重に選び、絶妙なバランスで切り抜けなくてはならない状況だ。


「それなら、ここに入らないように頼んで僕が中継ぎするか……」




 ――悪化したあぁー!!!




 青ざめながら思いっきり「イヤです!」と、フィリーオ兄様に抱きつく。


「お兄様に中継ぎしていただくなんてダメです。中継ぎしていたら、私とお兄様の一緒に過ごす時間が減ってしまいます」


 我ながら超論理展開であると思うが、ここまで来たら突っ走るしかない。10歳という年齢を最大限利用して、泣き落とし作戦に移行した。


「まいったなぁ……」


 お兄様は、抱きついてる私の背中に手を回し、長い指を私の髪に差し入れ、絡める。


「お願い」


 抱きついたまま涙目で見上げると、お兄様のハニーブラウンの目が大きく見開き、息を飲む気配がした。


「……わかった、ルナ。でも、そういうお願いを聞くのは今回だけだよ?」


「はい!」


 私のワガママに折れてくれたフィリーオ兄様は、何ヵ所か連絡を取った。そして、私達とジンとの中継ぎのためだけに、人事配置をやりくりして、この地に一番近いロークスの執事を急遽、呼び出したのだった。

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