◇25 古術祈祷式帰還
お兄様は「干渉源は、この辺り一面の壁を剥がせば見つかるだろ」と、壁に触れる。
「兄さん、壁に継ぎ目がないですよ?」
カナルが聞き返す。
「この壁は防弾じゃないから撃ち抜けばいい」
お兄様は効率重視で『壁の一部を破壊する』という決断に至るまでが早い。お兄様の銃――コルト45口径と弾倉を取りだした。
「2人とも僕の後ろへ。壁から離れていてくれ」
私とカナルは言われた通りお兄様の背後に立つと、銃弾数発を壁に向かって撃った。支えがなくなった壁は、こちら側にバタンっと倒れる。倒れた壁の中には、おびただしい数の見たことのない模様や紋章が描かれた長方形の紙が貼られた機械が見えた。
「紙が挟まっていたせいで音が遮ぎられていたんでしょうか?」
「いえ。ルナさん、これはそうじゃないです。古術祈祷式封じ込みのための式札です」
なんかよく分からないことをカナルが言う。
「術が完全じゃないから、完全に封じ込められず、声が聴こえていたというワケか」
「おそらくその予想で間違いないです」
古術祈祷式? 式札? 封じ込められない?
お兄様はカナルの言っていることが分かっているようだ。私だけが会話についていけない。
「こ…………か……ら……、出…………て」
式札という紙で表面が覆われている機械に繋がれているコードは四方の壁に沿って、それぞれ配線されている。
「ここ…………ら……して」
声の主の言葉が変わる。『誰?』と問う言葉から『ここから出して欲しい』という要望になった。
「『出して欲しい』と言っているようですが、カナルさん、方法はありますか?」
「方法はいくらでもありますが……この術をそのまま解除するのは良くない気がします。たいていこの術式を使う場合は、もう1つの大きな術を抑えるためのものですから」
「大きな術……ですか?」
「はい」
カナルが頷く。その間もずっと声の主は見えてないのに話し続けている。
「か…………り……たい、……えり…………い……の」
言い方は変わったけれど、内容に変化はない。
「古術祈祷式帰還……確かブレア・ライナーは『一部の知能を取捨選択して移植できた』と」
「ええ、古城で見つけた手紙にはそう書いてありました」
私達が誘拐されたときに古城の書斎で見つけた手紙の内容を思い出した。
「『帰還』という強い想いをだけを移植し、増幅させれば……時を還すことができる……」
時を還す術? それって何度も歴史をやり直すことができるということになるのではないだろうか。何度も歴史がある起点に戻り、リセットされる。でも、カナルだけは記憶をリセットされずに転生を繰り返している。前世もその前もずっと。そして、もちろん今世でもそうだ。
「もしかして……カナルさんが何十回も繰り返し転生しているのは、この機械のせいってことですか!?」
たどり着いた答えに、表情を無くしたカナルが私をじっと見て、静かに頷いた。




