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◇23 島での探索:入口5

 雑貨店の方から女のヒトの悲鳴が微かに聞こえた。一瞬、振り返って走るスピードを落とすと、「ルナ、止まるな!」とお兄様が私の手を引いた。

 きっとその内、私達を行かせまいと妨害しに追いかけてくる。さっきの悲鳴は、ホーリー・アルカードがヒトではない顔を晒したせいだと容易に推測できた。


「兄さん!」


 最後であることを示すように鐘の音が大きく鳴った。丘の上にある鐘のアーチが見えた。その下に立つカナルが叫ぶ。さきほどの鐘の音を最後に、揺れる鐘はだんだん振れ幅が小さくなっていっていることに気がついた。


 ――間に合わないっ! でも、お兄様だけなら間に合うはず


 鐘のアーチの下にあるモザイクのタイルがカタカタとスライドして空洞となっている入口を隠すかのように動いている。


「カナル! そこから離れろ!」


 お兄様は諦めかけた私の腕をグイッと引っ張り、私を前へ押し出した。勢いがつき、空洞に落ちて前に転びそうになるが、後ろからお兄様に体を抱きしめられて転倒は免れた。頭上にあるモザイクのタイルは急速に移動していき、完全に外で鳴っていた鐘の音を遮断した。

 辺りは暗闇で、罠に嵌まったかのように閉じ込められてしまった感じもする。でも、真っ暗で物音1つしない空間で、遠くから女の子のすすり泣く声が流れる冷たい空気と共に聞こえた。それは、ここにいる人間が私達3人以外の他にもいることを示す。

 アリマスさんが最後に遺した、謎めいた言葉がふっと脳裏をよぎる。


「リネア……さん?」

「……だ…………れ……?」


 体をなくしても閉じ込められているという女の子の名前を私が呟くと、おそらくここからずいぶん離れた場所にいるように感じたのに、反応が返ってきた。


「だぁれ……?」


 すすり泣きが止み、今度はひたすら私達が誰なのかを繰り返し同じ言葉で問う。その問い方がまるで壊れてしまった人のようだった。背筋が寒くなり、ギュッとお兄様にしがみつく。


「だぁれぇ? 見え……な……いよぉ…………」


 女の子の「見えない」という言葉が反響すると、奥の方から私達が立っている場所へと光に襲われたと一瞬勘違いしてしまうかのように照明がパッとついた。眩しくて目を閉じる。光の残像が瞼に焼きついて離れない。


「声から予測される年齢と言動が一致しない。幼児退行の症状が見られる」


 この先に進むと会うことになりそうな声の持ち主に対してお兄様が警戒する。確かに私より年上のような声なのに、言葉遣いは私より幼い。私もあまり刺激をしないように迂闊に言葉を発するのを控えた方が良さそうだ。さっきリネアの名を呟いただけでも反応があったということは、この中ならどの場所にいても声の主に聞こえてしまっている可能性が考えられる。しばらくして視界が戻った私達は、光の道のように明るくなった白く奥へと続く通路の先へと歩みを進めた。

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