◇20 島での探索:入口2
「あの……」
どうせ間もなく閉店するんだから、聞いてしまおう。簡単な質問を1つだけするなら、時間もかからない。店の奥にある自動演奏中のポジティフ・パイプオルガンに目を向け、「このオルガンに足りない部品ってありませんか?」と店の主に聞いてみた。
「なぜだ?」
「え?」
「おまえさん、なぜそんなことを聞く?」
店主が纏うオーラが変わる。逆鱗に触れるようなことをしただろうか? 突然の殺気だった様子に意味がわからず、よそ行き用の笑顔が凍った。
「持っているなら、置いていけ……」
カウンター内でカタンと金属と床とが接触する音が聞こえた。それからお爺さんが笑いながら顔を片手で覆うと、グニャリと顔面が変形する。シワがなくなり、所々にあった黒いシミもスッ消え、どこか見覚えのある顔になった。
「ホーラ・アルカード……」
お兄様は一言も言葉を発することなく、そう呟いた私の腕を強引に引いて店の扉を押し、外に出てしまった。
「兄さん!?」
『雑貨店は入りづらい』と店の外で待っていたカナルが、足早にメインストリートへと急ぐお兄様を呼ぶ。
「分が悪い。こうも外から丸見えだと、強行手段には出られない」
パイプオルガンの雑貨店は壁で囲まれておらず、外から店内が丸見えのショーウィンドウとなっている。何か暴力沙汰が起きれば、大騒ぎになってしまう。人通りが少ない路地裏とは言え、他の観光客が通らないとは限らない。
「何かあったんですか?」
「あの店に『ホーラ・アルカード』がいた。おそらくアリマス医院長のメタルディンプルパーツは、あの店に置いてあるパイプオルガンの譜面ロールに関連する部品だ」
「一旦、この島から離れますか?」
「ああ」
せっかく繋がりを見つけたのに、私達は先に進むことができなかった。
*****
先ほど離れた島から1番近くのショッピングモールに入る。私達はココでも観光客のフリをして、テーブルにガイドマップを広げた。
「お兄様、さらに変装するしかないです。そして、狙い目は観光客が店内にたくさんいるときです」
「まさか……人前で堂々とあのパイプオルガンをいじるんですか!?」
「ええ、その『まさか』です。パイプオルガンの修理職人風で訪ねるのはどうでしょう」
「兄さんならいけるかもしれませんが、子どものボク達は厳しいですよ?」
「いや、君たちは店に入らずに外に居てくれた方がいいな。ルナは見られているから変装が必要かもしれないが、カナルはそのままでいいだろ」
「では、私は男の子の格好になります。性別を偽えば、気づきにくいと思いますので」
週明けに、改めて行動することになった。




