ココロの成長とアウトな発言
遺跡から戻った私達4人は、街中のカフェに入った。
店内は狭く、ゆったりとした籐のイスと小さなテーブルがたくさん並んでいた。
「お兄様……」
「ああ、ルナの身長だと合わないか」
フィリーオ兄様は、私が言いたいことをすぐ理解してくれた。イスに座るとテーブルに届かないので、カウンター席の方が良いのだが、すでに満員だ。
「ルナ、膝に座る?」
「はい、ありがとうございます」
フィリーオ兄様が籐のイスに座ると「おいで」と言って、私を膝に座らせ、安定するように腰に手を回してくれた。
「それにしても2人は仲が良いのね」
「えぇ、とっても!」
奈月さんの座りながらのボヤきに、私がニッコリ頷いた。
「そうだね、ただ……この頃、ルナが現実主義者になってしまって、少し寂しく感じるんだ」
「べ、別にリアリストになったワケではナイデス」
ここ最近のキメラフラグ対策のせいで、フィリーオ兄様に誤解を与えてしまったようだ。
「そうかなぁ?」
「ソウデス……」
お兄様から疑念を持たれ、背中にイヤな汗をかく。
キメラ系の話をしなくなったせいで、共通の話題が少し減ったのは事実だ。しかし、そのせいで私達二人の関係にヒビが入るようなことは望まない。
「前に好きだって言ってたファンタジーなおとぎ話もしなくなったし、ペガサスにも興味がなくなったよね?」
――ハイ、その類いは全て封印して貸金庫へ預けています
「フィル、女の子はココロの成長が早いから。特に瑠梛さんは、日頃から大人びたトコロがあるから、余計そう感じるのかもね」
私が困っていると、奈月さんが助け船を出してくれた。
「今は……ファンタジーの世界より別のことに興味があるんです」
「別の? 例えば?」
私の言葉に納得してくれず、お兄様の容赦のない追跡が続く。
「えーっと……、大好きなフィリーオ兄様のこと……とか」
乗り切りたい一心でシドロモドロに答えた私は、「キメラのことがバレませんように!」と願い、焦った表情をお兄様に見られないよう、俯いた。
「瑠梛さん、照れて可愛い! そっかぁ、瑠梛さんも恋に目覚める年頃になったんだ」
それだけではないのだが、「ハイ」と頷いておく。そして、「お兄様が寂しがることは何もないですよ? もっと私にお兄様のこと、教えて下さいね」と、身体をお兄様の方に向け、首に手を伸ばして抱きついた。
「二人とも顔が近い! そういうのは二人きりの時にやれよ……」
今まで空気のように黙って、一連のやり取りを見ていた桐谷さんの忠告が横から入る。が、次のお兄様の言葉で場の空気が変わった。
「二人きりのときの方がアブナイよ? 二人だけのときに、こんな雰囲気になったら、流されて色々やりそう」
「フィル……アウトだ! その容姿でサラッと爽やかに言うから流しそうになったが、いろんな意味で今のはアウトだからなっ!?」
桐谷さんのツッコミと同時に、「ハァ」とため息をつきながら、フィリーオ兄様が片手で目元を覆った。
「……愁いだ表情のお兄様もステキです」
私がウットリとフィリーオ兄様を見つめていると、「うーん、普通なら即通報レベルだけど……、合意だし、絵になるし、問題ない……のかな?」という奈月さんの悩んでいるような呟きと、「フィルの外見に惑わされるな! シッカリしろ!」という桐谷さんのツッコミが聞こえた。
フィリーオ兄様の膝の上で抱きしめられて、紅茶を飲む幸せな時間を過ごしながらも、ココロの隅に引っ掛かりを感じる。
――そう言えば……昔からずっと……キメラ系の空想の動物が出てくるファンタジーのおとぎ話を、たくさんをお兄様からいただいたような
――お兄様は、私にキメラを好きになるように刷り込んでいる……?
――まさか……ね?
思い浮かべた疑念を追い払った。




