Б 天井裏の迷路
廊下は途中で分岐し、別の通路にぶつかる。中を照らす光は、ステンドグラスを通った光のみだから壁の色が曖昧だ。どこも似たような感じだから、今いる場所がさっき通った場所と同じかどうかもわからなくなってきた。
――完全に迷子だ
辺りは静かで物音1つ聞こえない。同じ天井裏にいるハズのお兄様との合流も望めそうにない。私達の前を歩くジンが、「お?」と突然声をあげた。
「アイツ、LISHに応援要請したみたいだぞ? これは、何か見つけたな」
ジンがコチラに振り向いて、ニヤニヤ笑う。私が知っているかどうか反応を見て探るかのようだ。何も知らないフリをして、「なぜ、そんなことがわかるんです?」と、逆に質問する。
「LISHの敷地からクレーン車やらヘリやら特殊車両がコッチ方面に向かってりゃ、回収しなきゃなんねーデカイもんを見つけたって、誰でも分かるだろ」
ジンの片耳をよく見ると、耳の中が肌と同じ色のカバーで塞がっていた。どこかと通信して、得た情報みたいだ。ロークスはジンの組織に監視されている。薄々は分かっていたけれど、そうであることをハッキリと思い知らされる。
「嬢ちゃんは、ココに何があるか聞いてないのか?」
「私達は誘拐された身ですから、脱出するのに精一杯でしたので何も知らないです。ですよね? カナルさん」
カナルに目ヂカラで「何も言うな」と訴えた。それが通じたのか、カナルは無言で頷く。
「そりゃそうか」
ジンはつまらなさそうに再び通路を歩き出した。
――危ない
ココに知能を移す機械が置かれていることを、ジンに知られるのは良くない気がする。あの時の、キメラの培養機から抜き取られたデータみたいに、取引の材料にされかねない。今、お兄様はシャロン・ライナーを追っている。ジンの情報では、機械の方の処理はLISHに依頼済みだから考えなくていい。あとは、お兄様を煩わせる事を1つでも減らせるように行動する――つまり、ジンに機械の存在を知られる前にココを脱出する。
「おい! もうソッチは行ったことがあるからコッチだ」
「行ったことがある? ボク達は、まだ行ってないハズですが」
「オレがココに入ったときに通った所だ。何もない」
「ということは、コッチに入口があるってことじゃないですか」
カナルのツッコミに、「ココは、通った道を引き返しても戻れねーんだよ」とジンが答える。なるほど、さすがジンだ。すでに天井裏の仕組みを調べあげている。思わず「まるで、一方通行の迷路ですね」と、ジンへの警戒心を解いて、感想を言ってしまった。
「ああ。コレを作ったヤツは、相当ねちっこいタイプの嫌なヤツだな」
ジンの所感は的を射ていた。




