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Ω 天井裏と詰み

 天井裏の部屋を見渡すと、片側の壁にある5枚のステンドグラスから光が入り、中を明るく照らしていた。壁とステンドグラスだけで、扉のような出入口らしきものはない。


「まさか……閉じ込められた? ルナさんのせいで」


「なぜ私なんですか? 今回は明らかにお兄様の単独行動のせいです。私達を迎えにきたハズなのに、追ってるターゲットを見つけたからって、置いてきぼりにするなんてヒドイです」


 文句を言って責任転嫁しまくりな会話をしつつ、部屋の中を見て回った。もし、この場所に『謎かけ扉』があったとしても、今は電源が供給されていないのだから開くことはない。この部屋の脱出できる扉や仕掛けが電気で動いていないという運にかけるしかない。


「壁や床までタイル張りだと、わからなくなりますね」


 カナルの言うとおりだった。タイル張りのせいで、切れ目が判別しにくく、手間取っている。壁に手を置いて力を加えるが、どちらの方向に力を加えるべきかサッパリだ。押しても横にスライドさせようとしても動かない。元の場所に戻ろうにも、さっき使ったシャンデリアの昇降機の場所さえ、安易に目印もつけずに動いてしまったので、もうわからなくなってしまった。


 ――もしかして、詰んだ?


 外から入れるけれど、中からは出られないというトラップが世の中に存在することぐらい知っている。ココがそういうワナでなければいいけれど。初めのうちは、この部屋から出られるものだと思って仕掛けを探していたが、だんだん最悪な状況を考えてしまう自分がいた。それでも諦めきれない。


「お? なんだ、隠し部屋?」


 突然、調べていたタイル張りの壁が手前に数ミリ押し出され、スウッと横にスライドする。


「オマエら、どうしてここにいるんだ?」


「そのまま! 動かないでください」


 投げかけられた質問を無視し、すぐにカナルを呼ぶ。目の前に現れたジンを押しのけて、私たちは部屋を出た。


「この部屋に入ると閉じ込められてしまいます。外からは入れますけれど、中から外には出られません」


 部屋に入ろうとしていたジンに告げると、「あぶねー」と安堵している。


「そういえば、ジンも来てたんでしたっけ」


 カナルが私の後ろでボソっというのが聞こえた。私もジンがココに来ていたことをすっかり忘れていたので、何も言えない。


「おい、アイツはどうした?」


 ジンが言う『アイツ』とは、きっとお兄様のことだ。でも、シャロン・ライナーを追いかけていることは「言わない方がいい」と直感する。普通に城外から来たら入ることのない天井裏にいる時点で、怪しい。ジンは何か別の目的があって行動していると疑わざる負えない。


「兄さんですか?」


「お兄様とは会っていませんけれど、なぜです?」


 カナルが聞き返した後に続けて、流れるようにウソをつく。


「いや? 誘拐されたクセにジッとしてないオマエらの子守りも大変だと思って、単に同情したんだよ」


「そうですか。では、アナタが外まで案内してくださいませんか?」


「は? なんでだよ」


「私達、迷ってしまったので」


 そう返すと言うことは、やっぱりココに何かあるのだ。すごく嫌そうだし、迷惑そうだ。


「ロークスは警察に私達の捜索依頼を出しているっていう話でしたけれど」


「……仕方ねーな、こっちだ」


 しぶしぶ承諾したジンと共に、何もないモザイクタイルの廊下を先に進んだ。

 

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