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Ψ 荒ぶるダンスホール

「特殊機器を廃棄する場合、第3者立ち会いのもと手順を踏んで廃棄。譲渡する場合、LISSのロゴを外したのち、記録台帳に記載したうえで移設。そのどちらでもなさそうだな」


 お兄様の揺さぶりにも動じず、シャロン・ライナーは無言のままだ。そのままホールの壁に沿って後退りする。無表情のため、感情が読み取れないが、動きに何らかの企みがあるのを感じる。シャロン・ライナーの一挙一動を見つめた。

 謎かけ扉のフレスコ画から少し離れた場所に、アーチ型の彫刻が壁に施されている。そこまでジリジリと後退したシャロン・ライナーは片手でサッと壁に触れた。


 ――何か押した?


 不審に思っていると、ホールを照らしていたロウソクの灯りがフッと一斉に消えた。ジャリンジャリンと勢いよく鎖が回転する音が天井から響き渡る。


 ――シャンデリアが落ちてくる?


 天井に固定されているものだと思い込んでいた。でも、この状況からだと、天井から吊るされた鎖の長さを調節して、巨大な4つのシャンデリアを同時に上げ下げができるようになっているようだ。このままだと、シャンデリアの部品が床に激突するかもしれない。安全な場所は今いるココしかない。その場から動かずにいると、空気が僅かに震え、私の前にいたハズの2つの影がなくなっていた。


 ――どこ?


 シャンデリアから荒々しいガラス音がした。視線を音がする方へ移すと、影の1つは他のシャンデリアの間を通り抜け、中央の巨大シャンデリアの上へと駆け登っているところだ。それをもう1つの長身の影が追う。


 ――置いてかれる!


 直感でそう思った私は、側にある一回り小さなシャンデリアの上に登った。中央とその回りにあるシャンデリアが一斉に天井へと引き上げられていく。


 ――間に合った


 あの2つの影の片方は、お兄様だ。絶対に置いて行かれるのは嫌だ。数時間前、こういう時には声をかけるよう、カナルに言われたような気もしたけれど、構っていられない。これはトラップじゃないからノーカウントだ。


*****


「ルナさん、なんで声をかけてくれなかったんですか! おかげでボクだけ取り残されるところでしたよ!」


 昇降機代わりのシャンデリアから下りた天井裏で、お兄様とはぐれてしまった私は、ワンテンポ遅れでシャンデリアによじ登ったカナルから気分が悪くなるような言葉をぶつけられた。


「これはトラップじゃないですよ?」


「ルナさんは、またそういう屁理屈を! 団体行動やチームプレーって言葉、知ってます?」


「それは、お兄様に言ってください」


「…………」


 広く何もない天井裏に、私とカナルだけポツンと立っている状況にイライラしながら言い返すと、黙ってしまった。


「失態です。シャンデリアの行き先が、それぞれ違うなんて」


 私はシャロン・ライナーを追っているフィリーオ兄様と合流するべく、ココからの脱出方法を探すことにした。

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