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Υ 螺旋階段の破壊された支柱

 螺旋階段を上りきり、薬品庫の『謎かけ扉』まで来てしまった。


「お兄様、ココまで戻る必要はないのでは?」


「この中にいたら黒焦げになるよ?」


 その一言で、私が予想した規模を越えることをやろうとしているんだ、と察した。


「カナル、絶縁シートは持ってるか?」


「ええ」


「ありがとう。たぶん僕が持ってる分だけじゃ足りない」


 カナルから畳まれたシートの束を受け取ると、お兄様は「2人とも死にたくないなら、今度こそ僕が迎えに来るまで大人しくココで待つように」と釘をさし、1人だけ螺旋階段を下りて行った。


「……黒焦げ?」


「電気系統を支柱ごと、同時に破壊するってことでしょうね」


「だから絶縁シートがたくさん必要なんですね」


「ルナさんが『絶対トラップを回避しろ』なんて言うから」


 ごく普通の要求だと思う。こんなことで責められるなんて、おかしい。


「お兄様が側にいても、こんな敵地の真ん中で私は死にたくないです」


「ルナさんが『絶対』って言うと、妙にプレッシャーがかかるんですから自覚してください」


 カナルの言い分に納得できない。別に圧力なんてかけたつもりはない。『お願い』しただけだ。


「それに、本当なら絶縁シートでむき出しとなるところを全部を覆わなくても、突き出た場所だけ覆って、感電しそうな所は触れないように移動すれば済むんですよ。兄さんが通常持っているシート量で足りるのに」


「それは私のせいではなく、お兄様の判断です」


 正論を主張をしたら、私をチラッと見て「ルナさんがいると、ずいぶん兄さんは過保護になる」と、ため息をついていた。


*****


 ――部分的に突出したところだけ絶縁シートがあればいいなんて、ウソだ!


 お兄様が迎えに来てくれたので、焼けた金属臭が漂う中、うっすらと見える白い煙とチリを出来るだけ吸わないように支柱のない螺旋階段を下りる。支柱の残骸が階段を塞ぐ形で横倒しになっているところは、お兄様に手伝ってもらって先に進んでいた。


 ――ハッキリ言って、2人の感覚は一般人とかけ離れてる!


 さっきから2人は『せん断破壊』がどうのとか、『応力』がどうのとか、どうでもいいことを呑気に話している。シートで覆われた支柱の残骸からは、バチバチと派手な音がしているのに。


 ――怖すぎる!


 金属製の塊の表面に青い稲妻の発光体が走っているのを、隙間から見てしまった。その様子から、支柱の中に高電圧放電中の崩れた機械が入っているということが、容易に想像できる。絶縁シートで全部覆ってなかったらムリだ。歩けない。過保護とか言ってるレベルじゃない。


 バチン!


 一段と大きな火花の音が足元で響き、一番近くにいるフィリーオ兄様にしがみついた。


「これって爆発しませんか!?」


「爆発? するかもしれませんね」


 お兄様ではなく、前を進むカナルが振り返って答える。ココは否定して欲しかった!


「大丈夫だ。だいたい爆発する直前には、それなりの兆候が見られる」


 ――それなり? 『それなり』って何!?


「たまに例外があるが」


「!」


 いつ爆発するか分からない状況だ。緊張しすぎて、辛い。


 ――早くスクリーンパネルまで着きたい


 私は必死に足を動かした。

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