キメラ研究へのフラグ ペガサスα
「せっかくもう一度キャンパスを案内していただけるのでしたら、今度のお休みの日にフィリーオ兄様の元に泊まって、ゆっくり見たいです」
先日の迷惑をかけたことへの謝罪とお礼の電話をしている私は、図々しくも、そうお願いした。
「ルナ、僕は学生寮で暮らしてるから、この場ですぐに返事はできないよ」
「ええ、わかっています」
「家族室の申請はするけど、今からだと……今度の休みっていうのは難しいと思う」
「はい、構いませんのでお願いします」
緊張したけれど、フィリーオ兄様の許可は取れた。お兄様の反応は予想の範囲内だし、学校の方はロークスのツテで根回し済み。通常、申請してもすぐに許可が下りることはないが、そこはロークス直系のチカラを使わせてもらった。
「ふふふ……これでお兄様の部屋に侵入し、情報収集ができるわ! 急いでお泊まりの準備を始めなきゃ!」
私は自分のベッドの上に、次々と持っていく物を並べ始めた。
*****
休みの日――
フィリーオ兄様に迎えに来ていただき、キャンパスへ出かけた。
荷物があるため、すぐに寮の中にある家族室へ向かう。そして、宿泊手続きを済ませた私たちは、家族室で紅茶を飲み、ゆっくり休むことにした。
本当は、すぐにでもお兄様の部屋に行き、キメラ研究に繋がる物品や本、資料などの有無を調べたいけど、そこはグッとガマンする。こういうときに、焦ってはイケナイ。
今日と明日のお兄様の細かい行動予定を聞くことにする。誰にも邪魔されずに、じっくり探し物を見つけたい。
「フィリーオ兄様、夜はご自分の部屋で休まれるんですか?」
「いや、小さな子どもを一人にはできないから、僕もココに泊まるよ」
「私は小さくないです!」
「はいはい」
私がムキになって反論したら、ニッコリ笑って聞き流された。腑に落ちない。
――ということは、プランAはダメね。
【プランA】
フィリーオ兄様と別れて家族室へ行くフリをし、部屋の中に隠れたまま、お兄様が熟睡するまで待つ。そして、寝ている間に探しだし、キメラ研究に繋がる物を排除する。
――では、プランBでいきます。
【プランB】
寮の部屋に案内してもらったところで、忘れ物をしたと言って家族室へフィリーオ兄様に忘れ物を取りに行かせ、自分は留守番。その間にキメラ研究に繋がる物を抹殺する。
不慮の事態に備えるため、複数のプランを練った私に死角はない!
「お兄様、そろそろ出かけませんか?」
「ああ、そうだね」
「では、お兄様の部屋へ」
「明日は天気が悪いらしいから、今日は外を案内するよ」
「…………」
――ま、まだあるわよ! プランCがあるわ!
【プランC】
フィリーオ兄様が寝ている間に家族室を抜け出し、学生寮の部屋へ! キメラ研究に繋がる物を抹殺した後、家族室へ戻る。
食事をし、外から寮の家族室に帰ってきた。
「ルナ、シャワー、先に使って」
「ありがとうございます」
――まだまだ余裕、夜は長いのだから焦ってはダメ!
シャワーを終えると、部屋着の私をフィリーオ兄様が手招きで「こっちにおいで」と、呼ぶ。
「髪を乾かすから」
そう言って、私をカウチに座らせ、優しい手つきで私の髪に触れた。仕上げにブラッシングもしてくれて、気持ちいい。
「ルナの髪は、滑らかだね。艶があって……ほら、天使の輪ができてる」
お兄様は、ロークス直系の特徴であるダークブラウンの緩やかな巻き髪を褒めてくれる。
「フィリーオ兄様の髪の方が、ずっとステキです」
「……ありがとう」
私が振り向いて言うと、困った笑顔でお礼を言われた。
フィリーオ兄様には、ロークスの血が流れていない。養子なのだ。それが、のちのキメラ研究に繋がっているのかどうかは、わかない。『フルフルちだまり☆』には、そういうエピソードはなかった。
「前を向いて」と促され、顔をもとの位置に戻した私は、心地良いフィリーオ兄様の優しいブラッシングに耐えられず……寝てしまった。起こして貰えず、そのままフィリーオ兄様にベッドまで運ばれた。
プランCも実行できない結果に……。不覚!