Θ キメラの部屋1
カナルが動けるようになるまで待ってから、2人でオーク材の扉を開けた。キィィと微かに音が鳴り、不気味さが増す。扉の中へ入るのを躊躇っていると、「ルナさん、何かありました?」と隣の扉に手を掛けているカナルに聞かれた。
「いえ、何もないです。でも不自然なほど誰もいないので変ですね」
「これだけ広い古城だと、かなりの人員が必要となりますから。効率よく管理するために、トラップで侵入者を排除したり、謎解きや仕掛けとかで城の中に侵入しないようなシステムを作って、セキュリティを強化させてるのかと思います」
「あと考えられることは……ヒトを城内に配置したくない理由があるということですね。確か、この古城は『私設美術館』でしたよね?」
「そうです。最下部のフロアーにある美術館には、運営スタッフとして普通にヒトがいた記憶があります」
「美術館の部分だけヒトがいて、他の場所にはヒトが立ち入らないようにしていると考えていいかもしれません」
ココに来るまで、これだけの仕掛けがあったことを考えると、美術館や古城の正規の出入口から立ち入ることができない仕組みになっている可能性が高い。だから、どんなにカナルが今までのループで『呪いの美術品コレクターの古城』に訪れても、城の上層に位置するココまで来たことがなかったという話も頷ける。
「そうなると、この扉の先からは通路に罠を仕掛けられていないってことですね。各フロアーの通路のすべてに異なる仕掛けを設置するのは非効率的ですし、古城の持ち主が移動の度に仕掛けを解除して歩くような面倒なことはしないハズですから。罠を仕掛けるとしたら、おそらく侵入されたくない部屋の扉か、その部屋の中だ」
そう言ったカナルの推測は正しかった。ヒンヤリと薄暗い城の通路は、歩いていても何も起きなかった。オーク材の大きな扉がある階と同じフロアーにある部屋に入ろうとしたとき、仕掛けが発動した。
その部屋の扉には鍵がなく、さきほどとは違う『謎かけ扉』になっていた。『謎かけ扉』自体は『呪いの美術品コレクター』のコレクションルームに入るため、カナルの『未来の歴史書』で山ほど解いていたから、どんな種類であってもクリアできる自信がある。でも、トラップの方は不明だった。
自動的に開いた謎かけ扉の先が暗く、ふらつかないように無意識に扉の取っ手に手を触れた。ハッと気付いて手を引っ込めて離れた瞬間、取っ手が突き出て刃物に変形してシュリッシュリッと上下に動いたのち、元の取っ手の姿に戻った。あやうく手が切り落とされるところだった。
「この部屋では、『壁や扉には触るな』ということですね」
後ろで様子を見ていたカナルが冷静にそう言い、私の横を通りすぎた。台座にあるコインを手にすると、2つ目の『仕掛け扉』の問題をカナルが解く。
ゆっくりと2つ目の『謎かけ扉』が開くと同時に、1つ目の『謎かけ扉』が同じスピードで閉まった。
*****
「薬品庫のようですね」
棚に透明なガラスビンが陳列されていた。量は微妙に違うけど、すべてのビンに銀色の液体が入っている。
「違いますよ。これ、全部キメラだ!」
カナルの言葉に反応するかのように、ビンに入った液体が一斉に動き、ガラス越しに銀色の液体に入った目玉が私達を見た。




