Η 鏡の間2
お兄様からの指示は、自己流に解釈することにした。待っていることと、見つからないようにすることは絶対に守る。でも、『そこから動かない』というのは、せっかくの情報収集のチャンスを逃す。だから、最大公約数的な拡大解釈をすることにして、『古城から出ないこと』を守ることにする。場所は『そこ』としか言われてないんだから、お兄様との約束は破ってない。
「兄さんは何て言ってました?」
「ジンと一緒に私達を迎えに来てくださるそうです。それまで見つからないように、と言われました」
カナルにはシンプルに内容を説明し、細かいことは話さなかった。色々と見たい場所があるから、その都度さっきみたいに止められるのはイヤだ。もし素直に話してしまったら、カナルのことだから、お兄様の指示は確実に実行しようとするに決まってる。
「カナルさん、お兄様が到着する前に急いで調べましょう」
カナルが頷くのを見て、鏡扉を締めた。
「ボクは……さっきのことは謝りませんからね」
通信端末として使った懐中時計をしまいながら、カナルは言わなくていいことを言う。でも癪に触るような話だけれど、今回は聞き流せた。なんとなく険悪な雰囲気になっていた時と違って、お互いに変な緊張感がなくなっているように感じる。その時は気がつかなかったけれど、フィリーオ兄様と話すまで私達は2人とも不安だったんだ。それを紛らわすため、無意識にトゲのある言い方で言いたい放題に八つ当たりしていた。
「私も悪いとは思ってませんので謝らないですし、謝罪もいらないです」
お互い様だから、そういうことは譲らない。同じ年なんだから遠慮はいらない。これでケンカは終わりだ。私は気を取り直して他の鏡の壁に触れてみた。
「ココとソコの2箇所以外は仕掛けがないみたいですね。カナルさんは、どう思います?」
「ワナを仕掛けるとしたら次の部屋ですね。ボクだったら、最初の部屋で何もないと油断させたところで、ガツンとやります」
私は「そうですよね」と同意する。回転した鏡の向こうにある部屋へ、いきなり入るのは危険だ。
「さて、どうしましょうか……」
鏡の回転扉の前で考えていると、私の背後で「ルナさん、向こうの扉を開けるだけなら簡単ですよ」とカナルが言う。鏡越しにカナルを見ると、伸縮性の指し棒のようなものを取り出し、長く伸ばしていた。そして、棒のジョイント部分を金具で次々留めて固定していく。
「準備ができたので、開けてください」
回転扉を少し開けると、その隙間から棒を入れ、隣の部屋の鏡の壁を棒で触れる。
ガシャン
すさまじい金属音が鏡の部屋全体に響く。回転扉の隙間から覗くと、床と天井、鏡の壁4箇所から鋭利な針が無数に満遍なく飛び出ている。
「ハズレですね」
カナルが棒で触れた鏡の壁を元に戻す。また別の壁に触れると、ゴォーと空気がいっきに隣の部屋に流れた。
「これもハズレか。床下への落とし穴とは、ベタなワナですね」
「ベタすぎて、ひねりがないです」
私も同意する。再びカナルは別の鏡の壁に触れた。
――え?
ガクンと視界が下がった。体がふわりと浮く。
「ルナさん!」
私達が立っている床が勢いよく下がっていく。
――掴み損ねた!
回避できず、鏡の回転扉から手が離れ、床とともに鏡の壁が遠ざかっていく。カナルが持っていたハズの棒が回転扉に挟まったままになっている。
「カナルさん!?」
返事がない。後ろを振り向くと、床にガックリと片膝をつき、俯いている。返事をしている余裕がないらしい。
数秒後、グンっと急激に重力が体にかかる。歯車に引っかかったようにキュルルルという摩擦音が鳴り始めると、降下し続けた床が静止した。目の前には大きく重厚なオーク材の扉が現れた。
――もしかして、入口?
「カナルさん、どうやら当たりみたいです。先に進めますよ? ……カナルさん?」
返事がない。
「カナルさん?」
「少し……待ってください」
私もこういうのは苦手だけれど、カナルは私以上にココロの準備がない状態での絶叫系の乗り物が苦手なようだ。




