Β 影武者となる器
地下倉庫に出た。目が暗闇に慣れるまで動かずに待った。カナルもいるハズだけと、安易に声を発すると命取りになる。言葉を発することなく、ただ静かにしていた。
待っている間にわかったことは、この部屋の温度や湿度は一定を保たれていて、無臭だということだ。管理があまりされていない山小屋の地下倉庫で感じるような埃臭さはない。
――ココは常に誰かが出入りしている場所ってこと?
10分ぐらい経っても物音はしない。しびれを切らし、隣にいるカナルが「ルナさん?」と囁く。
「まだ30分も経ってないですから、もう少し待ってください。今、動くのは危険ですよ? カナルさん」
「別に動こうとはしてませんよ。ルナさんが失踪してないか確認しただけです」
顔が見えなくても分かるぐらい、いつもの不機嫌そうな口調で言うカナルを笑い、さらに20分間じっと待つ。やっと暗闇の中でも見えるようになってきた。ぼんやりと真っ暗な闇に浮かぶのは巨大で透明な板でできたケースだ。真ん中のフローリングの通路を挟んで両方に設置されていて、ケース内には、いろんな高さの丸みを帯びた柱のようなものが奥まで規則正しく並べられていた。そして、おかしなことに、灯りとなるものが1つもない空間だった。
「ルナさん! これは全部、キメラの器ですよ。両目が空洞だ。しかもココにあるのはライナーの家系だけ」
私より少しだけ早く目が暗闇に慣れたカナルが、奥へと続くケースに沿って歩く。1体1体の顔や体格、背の高さを目視確認しているらしい。カナルの歩くスピードはドンドン速くなっていった。私との距離に開きが出たけれど、なぜかカナルは急に立ち止まったので、すぐに追いついた。
「ボクのが……ない?」
「カナルさんの器は、今使用中です」
「使用中!?」
「ええ。ショーの会場のバックステージで、ブレア・ライナーのキメラが中に入ったカナルさんの器に会い、お話しましたから」
「ルナさんは、それで捕まったんですね」
私は「ええ」と頷き、その向かいにあるケースの空いているスペースを見た。
「カナルさんの器の反対側には、お兄様の器があったようですね」
ケース内に置かれたタイトルカードの名前を指した。
「本当だ。でも、ルナさんとカレンさん、おじさん達の器はないですね。兄さん以外のロークスの人間だけないのは不自然だ」
カナルの指摘のとおり、ロークスの人間はフィリーオ兄様を入れて5人しかいない。それに比べ、ライナー家は親戚が多い。これだけ多くの器を揃えられるのに、あと4体ばかり揃えなかったのは変だ。
「ブレア・ライナーは、ボクに成り済まして何をしようとしてるんだろう?」
「さあ? 少なくともショーをやるつもりはないみたいです。カナルさんが入ることができる重要な場所としては、マジック関係で招待されるパーティー会場ですよね?」
「まぁ、そうですね。でもツアーは今日が千秋楽で、しばらくオフです。要人が出席するようなパーティーも予定にないですよ」
私達は両方のケースの空きスペースの前で、考え込んでしまった。




