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16 駆け引きのコツ

「それにしても、あともう少しでキメラを仕留められるという時に、お兄様に邪魔をされたので焦りました」


 サバンナ・ロークスのガゼボテラスにあるガーデンチェアに座り、憂いで見せながらサイドテーブルにあるティーカップに指をかけた。


「兄さんが邪魔を? ルナさんの勘違いじゃないんですか? どうせ分かりやすく駆け引きの相手を凝視してたり、不自然な動きとかしてませんでした?」


「相手の手元を凝視していた。しかも無表情で」


 お兄様が笑いながら私の代わりに答えた。あの時は必死すぎて、そんな風に行動していたか記憶にない。


「やっぱり。兄さんのフォローがなかったら危なかったですね。凝視とか不自然な視線の動きとかダメですよ、すぐにバレますから。ルナさんは、もう少し練習しておくべきですね」


 カナルの指摘にムッとしながらも、「わかってます」と素直に忠告を受け入れた。

 会話が途切れたところで、ずっと答えを保留にしていた、お兄様からの依頼の話をすることにした。お兄様からの申し入れから、もう1カ月もたつ。これ以上放置するのは、さすがに良くない。


「お兄様、実験に使う細胞の提供のことですが、もう少し待ってください。よく考えてから決めたいので」


 お兄様は、理由を聞かずに「わかった」と頷いてくれた。お兄様が何をしようとしているのか、よく見極めたい。お兄様のことは信じているけれど、自分で考えることもせずに言われるがままに差し出すのは、何か違うと思った。猶予ができて、ホッとする。


 ――そういえば


 ずいぶん前にカナルが言っていた言葉を思い出す。確か、全部のループでフィリーオ兄様が付き合っている相手に細胞の提供を正式に依頼する。その前に必ず起きるみたいな話だった気がする。


「でも……、その前に『めくるめく大人の世界』へ私を連れて行ってくださるんですよね?」


 お兄様が虚をつかれたように私を見つめ、カナルは瞬時にあさっての方角を見る。


「……10年後でいい」


「3年後ではなく?」


 お兄様がポツリと言うので、そう聞き返したところ、カナルが「3年後!? ルナさんは、まだ13ですよ? 早すぎる!」と叫んだ。意味が分からない。


「そう言うってことは、ルナに余分なことを教えたのはカナルか?」


 低い声で微笑を浮かべながらカナルに聞くお兄様が怖い。カナルが首を横にブンブン振りながら、「誤解です」とか「ルナさんは意味が分かってないですから」とか、シドロモドロに言う。明らかに動揺していた。

 どうやら私がよく分からずに発言したせいで、カナルがピンチに陥っていることだけは、2人の様子から理解できた。

番外編「影武者」を最後まで読んでいただき、

ありがとうございました。

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