馬と花の銀細工
お兄様と船内プールで遊んだ私は、気分がスッキリした。
何より、落ち込んだ私の気持ちを一番浮上させたのは、照れながら「水着姿もカワイイ」とフィリーオ兄様が言ってくれたことだ。
――落ち込んでなんかいられない……、お兄様が死んでしまうのは絶対ダメなんだから
気持ちを切り替えてキャビンに戻り、森に入るのに適した装備をしていく。
桐谷さん達は山や森によく行くので準備が早く、私が準備に手間取っているうちに、私達のキャビンに迎えにきてしまった。
「さすがベテランですね、奈月さん達、準備が早いです」
「観光地だから道は整地されてるし、そんな重装備じゃなくて大丈夫だからねー」
――えーっと、整地されてるから大丈夫って、比較する基準が違いすぎます
「私、足が遅いので皆さんのペースについていけないかもしれません」
奈月さんの言葉を聞き、不安に思ったことを前もって伝えた。
「ルナ、大丈夫だよ。こういう場合、一番遅いペースの人に合わせるのが暗黙のルールだから」
フィリーオ兄様がそう言いながら、私のウィンドブレーカージャケットを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
心配事が減り、渡された服に袖をとおした。
*****
今回の寄港地は、前の地域と違って自然が豊かなところだ。私達四人が整地されただけの道を歩くと、砂ぼこりが舞った。
遺跡のある森に入る手前には、ちょっとした市場があって活気に溢れている。
市場の中を歩いていると、たくさんの珍しい商品が並んでいて目移りしてしまう。遺跡巡りの前だから、足への負担を減らすため、あまり荷物が増えないよう、市場での買い物を極力避けるべきなのは分かっている。でも、見るだけならタダなので、チラチラと露店を見ながら前へ進んだ。
――儀式用のククリナイフ?
短刀の中でも群を抜いて殺傷能力が高いと言われている代物だ。儀式用とはいえ、普通に露店で販売されていて驚く。
「あれは……」
銀細工の鞘に見覚えのある模様が刻まれていた。
――馬と花の透かし彫り
ゲーム『フルフルちだまり☆』で画家ナギラが特に愛用していた武器だった。
「皆さん、すみません!」
フィリーオ兄様のブレーカージャケットの裾を引っ張りながら、歩みを止めた。
「どうしても買いたい物が……」
画家ナギラがコレを手に入れる前に私が購入してしまえばいい。瞬時にそう判断した。
「ルナ、まだ森に入る前だから……」
お兄様の忠告が終わる前に、私は「ゴメンナサイ」とだけ早口で言い、話を無視して行動に出た。私達の3メートル後ろにいる画家ナギラが視界に入ったからだ。画家ナギラは船内スタッフであるが、きっと今日は仕事休みの日だ。
「コレ、ください」
この露店を画家ナギラが通る前に購入を終えた。
「お待たせして、すみませんでした」
フィリーオ兄様は「仕方ないな」と言いたげな表情で、私の頭に軽く手をのせた。そして「ルナ、行こう」と、私の手をとって歩き、先に進んだ桐谷さん達と再び合流した。




