15 変わりゆく心*フィリーオ・ロークスが見たもの
ルナがしがみついたまま動かない。体が震えているので、とりあえず抱きしめて落ち着かせた。
「ルナ、大丈夫か?」
ルナは首を横に振り、チカラなく「ダメです……お兄様が倒れているみたいで怖いんです」と小さな声で呟く。残骸が散らばって脱け殻となったキメラの器を見たくないらしい。
「僕が後始末するから、ルナは部屋に行って休むといい」
ルナの視界に入らないように気を付けながら抱き上げ、そのままルナの部屋に連れて行った。
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キメラの器だけでなく、使用したアンプルや液体が付着しているものも片付けた。サバンナ・ロークスのスタッフは、もともとLISS所属の精鋭部隊を何らかの事情で辞めることになったヒトばかりであるせいか、ギョッと驚いた素振りも見せずに手伝ってくれた。
後始末を終え、ルナの部屋に入って終わったことを伝えると、抱きつかれた。
「急にどうした?」
「お兄様、私……やっぱりお兄様のことが好きです! 絶対にいなくならないでくださいね?」
「いなくならないよ。それに僕が死ねばルナも消えるだろ?」
「そうでした……」
腰に巻きつくルナの腕が緩む。
「ごめんなさい……お兄様は気を悪くされるかもしれませんが、好きという気持ちがなくなってしまいそうだったんです」
「え?」
「今までは会っていないときも、お兄様のことを思い出すだけで心臓がドキドキしてうるさいほどだったんです。でもそれが突然消えてしまったので……もう私のお兄様への気持ちはなくなってしまったのかと」
「それって……いや、なんでもない」
幼い恋が変わる。男も女も関係なく、恋人が長く付き合うと必ず訪れる通過点だ。常に鼓動が高鳴っていた状態から、穏やかで起伏の少ない幸福感に包まれ、時として激情に駆られるものへと変わる。ただルナの場合、気持ちが育っても理解が追いつけなくて酷く混乱しているようだ。気持ちが育ったことを知るまでには、まだ時間がかかるだろう。
それにしても、『まだ子供だから』と待つ覚悟をしていたのに、こんなに早く気持ちが育つとは思わなかった。自分の存在がそうさせているのかと思うと、なんとも言えない罪悪感がある。まだ10歳だ。本人が自力で答えにたどり着くまでは、そっとしておく。
「ルナ、愛してるよ」
悲しそうに見上げるルナの髪に指先を差し入れて頭を撫で、ルナの代わりに答えを言った。




