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12 物騒なプレゼント

 お兄様は手紙を読んだのか、文面通り捉えてくれたようだ。それから2週間過ぎても、お兄様から「どうしたんだ?」という連絡がないから、そういうことだと思う。お兄様のことを考える時間も少なくなっていくけど、ココロはざわめきもなく、穏やかだ。


「フィリーオ様から荷物が届きました」


 部屋まで届けに来てくれたお手伝いさんから受け取り、「お兄様から?」と呟いた。


 そう言えば、昔、激怒したお兄様が怖くて避けていた頃にも、こうやって何回かプレゼントを私に贈ってくれたことがあった。懐かしい。そのときのプレゼントは、私の好きな幻想動物が出てくる物語の本だったり、画集だった。浮き立つ気持ちを抑えながら、お兄様からの送られてきた荷物を丁寧に開けた。きっちりとクッション材が詰められていて、厳重に梱包されている。


「液体? ……薬品?」


 出てきたのは、2本の無色透明な液体が5ミリほど入った細く小さなガラス製アンプルだった。アンプルに貼られたラベルには読めない文字で化学記号らしきものが走り書きしてある。同封された手紙を読むと、『万が一、シャロン・ライナーのヤツラに接触した場合、服用するように』と書かれていた。人間の体には無害だけれど、実験体には効果があることや、1、2滴ぐらいで効果はあるけれど、いざという時に服用しづらいため多めの量になっていることも綴られていた。


 ――なんか予想と違って物騒な物だった!


 手紙は、『使用してなくなったら新しいものを送るから連絡するように』という内容で終わる。無駄のないシンプルな内容でホッとした。

 お兄様はこれを調製するために、ずっとLISSの実験室に引きこもっていたみたいだ。その証拠に、私と一緒にいたときにお兄様が襲撃されたあと、同じような服毒自殺のニュースはない。そして、お兄様がくれた手紙の文面から読み取れた情報がある。考えらることは、シャロン・ライナーに似た人物と接触すると、どういう方法なのかはわからないけど、実験体とされる生物が侵入してくるみたいだ。この薬品を服用するように言うということは、ヒトの体内に侵入してきた実験体を体外に排出または体内で殺傷する効果があるということだろう。


 ――お兄様は、私が襲われると思ってる?


 私が目撃したことを知らせたから、かえって心配させたみたいだ。罠を仕掛けられても大丈夫なように、その対策を講じる。そのこと自体は正しい。でも、私の性には合わない。


「せっかく良いものをいただいたんですから、使わないワケにはいかないですよね」


 敵が来るのを待ち構えるなんて、次に取れる行動の選択の幅が狭くなる。たぶん、シャロン・ライナーは泳がせていても構わない。でも、お兄様にソックリな人物は放置するワケにはいかなさそうだ。LISSに潜りこまれたら大変だし、現時点で、その存在を知らない私の家族にも罠を仕掛けやすい状態だから、かなりの被害が及びそうだ。

 私は持っていたアンプルをそっと箱に戻した。

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