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10 見抜くチカラ

「他にカナルさんの知っていることはないですか?」


「ないですよ……」


 カナルが目を閉じたまま眉間に指先をあて、ぶっきらぼうに言った。


「そうですか。意味がわからないうえに、必要なさそうな情報しか得られないとは」


 私がため息をつくと、「うっ」と唸りながらカナルは気まずい表情をする。突如マジック用のトランプ――バイスクルを片手にカードを切りはじめた。気を紛らわしたいらしい。


「ルナさんの話を聞く限りだと、兄さんは、恋人と実験のサンプル提供を頼めるぐらい信頼関係が作れたと思っていた。だけど、相手は一方通行で報われないと心が折れて別れたってことですね」


「たぶん、そういうことですね。お兄様はフラれて当然です。いろいろ事情があるかもしれませんが、自分の手の内を見せずに、相手は自分に好意があるからと(たか)をくくって、必要な物だけを要求するってヒドイです」


「高をくくってるってワケじゃないと思いますよ、本当に相手の気持ちに気がついていないだけかと。ただ……」


 カナルは言葉を区切り、テーブルに数字が書かれた面を上にして、順にカードを1枚ずつ横一列に並べていく。7枚のカードに書かれた数字やマークは、どれも異なりバラバラだ。


「ただ、なんですか?」


「今までのループでは受け身で、流されるままに付き合うことになったから、そこまで相手の心の機敏に関心がなかったんじゃないかという感じは否めないですね。全員が年上で大人の恋人だから、そういう付き合い方ができたとも言えますが。それより兄さんの好意に高をくくってるのは、むしろルナさん自身じゃないんですか?」


 カナルが余分なことを指摘するので、「私は違いますよ?」と、当然のごとく否定した。


「自覚がないんですね!? ……それにしても、兄さんはヒトの細胞を使って何の実験をしようとしてるんだろう?」


 カナルは疑問を口にして考え込みながら、カードを並べた順にめくっていく。すべてのカードが裏の模様になった。


「以前にお兄様から預かったデータチップに手がかりがあると思いますが、今となっては没収されてしまったので確認する術がありません」


「ああ、ルナさんがヘマをしてミドナス・アルカードに盗られたから」


 サッパリとした口調で私の傷口を抉る。


「もともと私がバックステージに訪ねたとき、カナルさんがパスコードを素直に教えてくだされば、ああいうことにはならなかったんですよ?」


「ええーっ? ボクのせいですか!? 理不尽だ!」


 こんなことを言い争っても仕方がない。不毛だ。カナルは不服そうな態度で、再び7枚のカードを1枚ずつめくっていく。すべてのカードがスペードのエースになった。


「え? カードが変わった?」


「はい、変わりました。種明かし、しましょうか?」


「ええ」


「これはカード当てのマジックで、相手に『スペードのエース』を引かせるためのものですよ。好きなカードを選んだように見えるけど、実は違う」


「それ、種明かしって言わないですよ?」


「十分、種明かしですよ」


 カナルは片手をテーブルの上にかざして撫でるように7枚のカードを端から集めると、集めたハズのカードがなくなった手のひらを私に見せて笑った。

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