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9 過去のループ

 私がタワーオフィスから自宅に戻ると、カナルがガゼボテラスで待っていると執事から言われた。だいぶ待たせたようなので、自室へは行かず、ガゼボテラスに直行した。


「カナルさん、どうかしました? お兄様の襲撃事件について何かわかりました?」


「いえ、そちらは進展がないです。それより、カレンさんからボクに連絡がありました。ルナさんが、読んでいる本が何なのか知りたいって。一体、何を読んでるんですか? 一方通行の報われない愛に、最後には人体実験に使われる泥沼悲恋ものって……、親が心配する内容の本を読むには年齢的に早すぎませんか?」


 顔を合わせた途端、一方的にカナルが話す。カナルは、お母様から疑われていることを微塵も思っていないようだ。だいたいお母様は、私について知りたいことがあれば、まずロークスの執事かフィリーオ兄様に連絡する。でも今回の場合、カナルに連絡したということは、お兄様は変な内容の本を紹介したり私にあげたりしないので、カナルが紹介した本なのではないかとお母様が思ったと、容易に想像できる。


「本は、年相応の物語を読んでいますよ? お母様が心配されている内容は本ではないんです。過去のループで、お兄様と恋人との間に起きた別れたキッカケの話を確認したんです。おそらく、すべてのループで起きた共通の出来事だと思います」


「共通? まさかルナさんにも起きたんですか?」


「……私の場合は、事前に打診という形で来ました」


「驚きました。事前の打診なら納得です」


 妙にカナルが焦ったような表情になり、私の答えを聞くと安堵するように体を弛めて椅子の背にもたれた。


「カナルさん、その感じは……知ってますよね!?」


「いえ、知りません。何も知らないです」


 私から不自然に目をそらす。


「絶対、知ってます! カナルさんの個人的判断や考慮なんて、今までろくなことになってないんですから、さっさと話してください」


「ルナさん、辛辣すぎます! 確かにそうですが、こればかりは言えないですよ!」


「そうですか……それならいいです。別に私はお兄様と長期のケンカになろうが、別れることになろうが困りませんから」


 実際はそんな気はないのに、ハッタリをかます。カナルには効果的だ。


「くっ……ルナさんは、卑怯だ! その、……………です」


「え?」


 ボソボソと言うので聞き返す。


「だから、……………」


「聞き取れないです、ハッキリと言ってください!」


 イラつきながら強く言うと、「本当にどうなっても責任は負いませんから!」と、カナルは宣言し、声を潜めて言葉を続ける。


「あるループのときにたまたま聞こえたんですよ。別れる前日には……」


 躊躇うカナルの次の言葉を無言で待った。


「……やっぱり無理ですよ! 10年後じゃダメですか?」


「ダメです」


「はぁ、もういいです。ルナさんにはまだ理解できない『めくるめく大人な世界』ですよ、いわゆる某有名ゲームの『なぜか宿屋の主人が知っている、昨晩はお楽しみでしたね』です!」


 と、投げやりに早口で言う。


「カナルさんの言っている意味が、まったくわからないです」


「……ですよね、忘れてください」


 あからさまに気落ちしたカナルを尻目に首を傾げた。そして、あまり重要な情報ではなさそうだと判断する。



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