キメラ発生の兆し
衛星通信に繋がっているパソコンの前に座るフィリーオ兄様の横顔を見ながら、私はひとり悶々としていた。
――マズイことになってるのかな? わからない……
フラグを折っても、ゲームシナリオにない別のフラグが現れている気がする。フィリーオ兄様のキメラ研究は、別の経路を辿っていき、最終的な起点は同じになるように出来ているとしたら、キメラの発生は変えられない。私は弱気になってきた。
――それにしても、気になるのは……昨夜の出来事
まだフィリーオ兄様の研究が始まっていないにも関わらず、その片鱗が見られた。
――もしかしたら、実はキメラの研究に繋がるベースが出来上がっている?
世の中に発表されている研究や技術は、たいてい他の研究や技術からの派生だったりする。たまたま偶然に発見し、当初の目的と違う物にも利用できることを見出だし、利用できるように仕上げていくことが多々ある。ということは、お兄様の研究に繋がる他の研究も見つけ次第、潰さないとイケナイ。
「やらなきゃイケナイことが増えてしまいました……」
「え?」
「いえ、何もありませんよ? それより、桐谷さん達が撮った昨日みたいな特種な気象現象のニュースやSNSの情報は、ありませんか?」
「うーん……それは、ないみたいだね」
「そうですか」
フィリーオ兄様の返事を聞き、安堵した。まだキメラの発生は予兆だけで、本格的な発生はない。
とにかく、お兄様の近くにいれば、何らかの発見はできるし、いざとなれば行動できる。
フィリーオ兄様に「ルナ、使う?」と聞かれ、首を横に振った。ロークスへの定期連絡も済んだので、私達はパソコンルームからキャビンへと戻った。
「そうだ! お兄様、プールに行きませんか?」
気分転換に提案してみた。
こんな風に落ち込んだときには、頭を空っぽにして、体を思いっきり動かすと良いと、誰かに聞いた。
「それは……見学?」
「当然、泳ぎますよ!」
沈黙が流れた後、お兄様が「自分は見学でいい」と言い始めたので、問答無用でプールに引きずって行った。




