表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/264

ab プエルマの器と選択

 私とお兄様、カナル、プエルマの4人は、別館からカフェに戻ってきた。お兄様が遅めの食事を取り、私とカナルはプエルマが興味を示した幼い頃に読んだ本について話す。


「私、早く外に出たい。話に出てくる場所、見たいの」


「今日中には外出可能かどうかの結論が出る」


 私とカナルが答えられずに困ってると、お兄様が教えてくれた。


「…………」


 プエルマが無言でお兄様を睨む。


「なんだ?」


「なんでもアナタが決めるの、おかしいわ。なんでも知ってるからって、自分勝手」


 プエルマがお兄様の批判する。不穏な空気だ。


「ああ、その体を使ったからか」


「私には性別がないから、この体でなくても良かった。なのに……」


 確かに今までの様子を見ていると、キメラには性別がないようだった。器に合わせて仕草や言葉、声色を変えているみたいだ。だからプエルマは、女の子の器を使わず、LISUが用意さえできれば男の子の器を選ぶこともできたのだ。私はこの姿のプエルマがプエルマであり、男の子のプエルマなんて、今更想像できないけれど。


「僕達には別の器を用意するまで待っている時間がない。それに、その体はルナが気に入ってる。そうだろ?」


「え? そんなこと……」


 突然、お兄様に話題を振られる。プエルマの視線が私に向いた。咄嗟のため、素で「言ってません」と答えようとしたら、お兄様が「なんせお気に入りのブルーダイヤのチョーカー、あげるぐらいなんだから」と、言葉を被せた。


「はい。私には親しみやすいので、プエルマさんはその方がいいです」


 そう即答した。あまりにも無茶振りだから、ココロのこもっていない話し方になってしまった。私の中では横流しをしたことを許してもらえたものだと思ってたから、すっかり忘れていたし、油断していた。別にプエルマの容姿を気に入っているワケではないので、訂正したいところだけれど、私はお兄様に合わせて、そう言うしかない。まさかココで掘り返されてサラッと言われるとは。


「ルナがこの姿を気に入っているなら……」


 プエルマは照れて嬉しそうだ。カナルは今にも吹き出しそうになるくらいに笑いを堪えたような変な顔をしている。お兄様は何事もなかったかのように食事を再開した。


*****


 会話が途切れ、静かになったとき、「それにしても、おじ様は……ご無事でしょうか」なんてバカなことを言ってしまった。誰もがそう思っているけど、それを口にすると焦りが出て判断ミスになりやすいため、敢えて話題にしなかっただけだ。


「72時間を越えると厳しくなるな。父が行方不明になってから、38時間経つ。明日中に発見しないと生存率が下がる」


「明日中……」


 カナルが眉間にシワを刻む。と、そのとき、別館の方角で爆発がした。このカフェまで震動が伝わる。


 ――え!?


 私とカナルが席を立ち、床にしゃがみこんだ。でも、お兄様とプエルマは何もせず席に座っている。


『立ち入り禁止区域、第4手術室のホールにて爆発。詳細は現在調査中』


 館内放送が流れた。


「2人とも大丈夫だから、椅子に座って」


「お兄様……何かしました?」


「いや、何も? ただ、実験機具の洗浄不足で残存した揮発性物質が爆発することは、ごく稀ではあるが、よく聞くことだから。特に自動洗浄では洗いにくいタンクと繋がっている配管なんて危険だ。光制御の揮発性触媒(きはつせいしょくばい)を使ったなら、せめて万が一、圧がかかったときのためにコックぐらい開放しておかないと」


 ――個人的な意見として他人事のように言ってるけど、絶対立ち入り禁止区域のバックヤードで何か仕掛けたとしか思えない!


 涼しげな表情(かお)のお兄様を、私は疑いの目で見ながら椅子に座った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ