船上パーティーと早すぎる襲来
今夜は船長主催のウェルカムパーティーだ。
私はプリンセスラインの柔らかいレースをいくつも重ねたドレスを着た。フィリーオ兄様はタキシードで、私が昨年の誕生日にプレゼントしたカフスボタンを袖口にはめてくれている様子に見とれてしまう。目が合うと、サッと視線をそらした。なぜか急にジーッと見ていたのが恥ずかしくなった。
「ルナ、もう準備できた?」
「はい、大丈夫ですよ、お兄様」
お兄様と手を繋いでパーティー会場へと向かった。会場入口には船長を始めとする船内スタッフが横に並び、乗船客を出迎えてくれる。
ホール内では、ピアノ、バイオリン、フルート、コントラバスの四重奏が流れていた。私達はグラスを取り、アーチ型のガラス張りの壁へと移動する。
2人で生演奏を聴き入っていると、タキシード姿の桐谷さんと、着物姿の奈月さんがこちらにやってきた。
「フィル、さっき面白い写真が撮れたよ」
合流するなり、桐谷さんがフィリーオ兄様に興奮ぎみに話す。
「良かったですね!」
心の中で「これでグリフォンフラグ、消滅!」と喜んだ。
「ありがとう! 写真、見る?」
奈月さんの言葉に私とお兄様が頷くと、奈月さんはバッグから1枚の写真を取り出した。
――!?
――なぜ? お兄様のキメラ研究は、まだ始まってないのに!
そこに写っていたのは、夕暮れの空に浮かび、七色の絵の具をぶちまけたように禍々しく輝く、輪郭の滲んだ球体だった。
その現象は、『フルフルちだまり☆』でキメラのいる場所に現れる特徴だ。おそらく空で見えたということは、飛翔系キメラだ。
「珍しい気象現象だな」
「だろ? 超望遠レンズでギリギリだったんだ」
食い入るように写真を見るお兄様に対し、桐谷さんが得意そうにしていた。
「すみません、これはどの方角で見えたのですか?」
「この船の進行方向よ?」
「ありがとう!」
私は奈月さんにお礼を言うと、手に持っていたグラスを通りかかったスタッフに渡した。
「お兄様、私、失礼します」
「ルナ!」
お兄様の私を掴もうとする手をヒラリとかわし、急いで会場を抜け出した。
――ちゃんと確認しないと!
――どうか見間違いであって欲しい!!
迷路のような通路と階段を通り抜け、船頭側の外周デッキへ出た。
「そんな……見間違いじゃないなんて……」
まだ遠く距離は離れているが、船の進む先に『フルフルちだまり☆』で見慣れた光景が、そこにあった。




