u 代替となる部屋
お兄様がいなくなった迎賓室で、カナルを先にバスルームに押し込めた。気になった場所を見て回りたかったので、このリビングを早く誰もいない状態にしたかったからだ。私の行動に小言を言ったりするヒトや阻止するヒトがいなければ、調べやすい。
――きっとココは司令室の代替になる部屋なんだから、緊急時に機密情報に繋がる設備があるハズ
自分が『もし設備担当なら、どこに設備を隠すか』をひたすら考えながら探す。モニター画面やテーブル、棚なんてベタすぎだ。その周辺も見たが、やっぱりなかった。
「普通のヒトなら思いつきもしない、変な場所を探した方がいいかもしれません」
なんて独り言を言いながら、キッチンを見た。
「まさか……ね?」
しかし、一応確かめてみることにする。調理台も流し、冷蔵庫にもない。残りは食器棚と、色んな国の料理本だ。
「料理の本?」
ココに料理本なんて不自然な感じがする。インテリアみたいに置かれている本を1冊ずつ開き、中を確認する。
「……あった!」
何冊目かの本を手にして開いたとき、それがあった。
「このリモコンボタン、自爆スイッチではないハズ!」
遠慮なくボタンを押すことにした。
「ドォーン!」
「!?」
驚きすぎて、声にならない悲鳴と共に心臓が早鐘を打つ。慌てて背後を振り向くと、バスローブを着たカナルがイタズラっぽく笑っている。
「カナルさんっ!」
「何をやってるんですか? どうせまた兄さんに内緒で何か企んでるだと思いますが」
ムスッと怒ってると、『企んでいる』なんてヒドイことを言われた。
「単なる調べものです」
「調べもの?」
「はい、コレです」
グッと本に隠れたボタンを押し込んだ。四方の壁が天井や床に収納され、備えつけのテーブルやソファといった家具も次々と勝手に端に移動していく。ホテルのような内装が司令室へと変わった。
「……これは」
「ココは司令室の代替となる場所です」
「ルナさん、それは分かりましたが、内装の戻し方は分かってます?」
「…………」
カナルに指摘されるまで、戻し方なんて考えていなかった。
「と、とりあえず、調べものが先です」
モニターにLISUのロゴが表示されるのを待ち、それからモニター前に立った。
「LISUのデータベースにアクセス。被験者がヒトであることを条件に全ての実験記録を表示」
リストを表示させたが、LISHで調べたときと同様、1件しか該当がなかった。詳細を開くと、被験者情報が表示された。
「被験者ブレア・ライナー、実験者はシャロン・ライナー? ライナー家ってカナルさんの……?」
「はい、そうですね」
もともとライナー家はロークスの分家で、ロークスに後継者がいない場合、ライナー家から補充されることになっているので、ロークスとは親密な関係だ。ロークスの事業に関わるライナー家のヒトがいても、おかしくはない。
「でも、この2人はボクの家系とずいぶん離れています。親戚ではあることには間違いないですが、ずっと前からボクは会ってないので、情報をあまり持っていないです。知っていることと言えば、ブレアがシャロン・ライナーの父親だというぐらいです」
カナルが肝心な情報に疎いことは今更だ。初めから期待していない。
「そうですか……あとは管理責任者ですね」
さらに詳細情報を開いた。
「管理責任者はレン・ロークス……おじ様?」
私の呟きを疑うかのように「まさか!」とカナルがモニターを凝視した。
「ルナさん、よく見てください。管理責任者の横に交代日があります。前任者がいるってことですよ」
「驚きました。前任者は……更新されて消されてますね。普通は履歴を残すものですが変ですね」
所々引っ掛かりを感じる情報を得たため、スッキリしない。私達2人はモニターを見たまま考え込んでしまった。




