p わがままなおねだり
「お兄様」
目を閉じて、そっと軽くお兄様の頬にキスを送った。「お願い」と、お兄様の耳に顔を近づけて甘える。それから肩に手を伸ばして、今度は唇を重ねた。「報酬を先に受け取らせて『お願い』なんて、まるで悪徳商法の押し売りだな」と、ヒドイ言いがかりをつけながら、お兄様は私の首筋を撫でて私に濃厚なキスをした。「押し売り」なんて言ったのに、しっかり便乗している。
「うまくやらないと、世間に知られたらロークスが沈む。管理責任者を誰にするかが問題だ。実験体である僕はなれない。必然的に父になるが、今は行方不明だ」
「管理責任者がいないと、外出は難しいですか?」
「ああ。まだプエルマは信用がないから、この施設内ですら、どこで何をしているかを常に監視される。それにアメーバ型だと、あの人形の器から自由に出ることが可能だ。今の状態でココから外に出ることはできないな。アメーバ内部のコアを器に固定化する施術が必要だ」
「固定化する施術のときに、内部にブルーダイヤを埋め込めば、位置が把握できます。プエルマさんの管理責任者は、おじ様が見つかるまで私ではダメですか? 他人にひどく怯えている感じがしますので、今のところ私が一番最適だと思います。お兄様が私をサポートしていただく形になれば、ある程度体裁は整うかと」
私の提案をお兄様は黙って聞いたあと、何かについて思案しているようだった。そして、「一応、進言はするけど、ルナの思い通りになるかは……」と苦言を呈した。おそらく今の状態でお兄様がLISUに進言するだけでは無理だ。わかっている。
「ええ、構いません。お願いします。あと、お母様に連絡を入れたいです。今夜はヴィラ・ロークスに泊まる予定でしたので」
「わかった。まだプエルマの検査が終わるまで時間があるから、そっちの用事を先に片付けよう。オフィスはコッチだ」
お兄様と手を繋ぎ、「ありがとうございます」と笑顔でお礼を言った。
――根回しが間に合えばいいけど
お母様を通してお父様からもLISUに勧告してもらう。そのためには、まずお母様に『私のお願い』を聞いてもらえるかにかかってくる。短時間での説得はやったことがないので、頭の中で説得のためのストーリーを慎重に検討した。




