n ロークス軍事施設LISUへ
お兄様を先頭に私と手を繋いでいだプエルマ、そしてカナルの順に並び、ブラックキャブで乗り付けたタワービルのエントランスロビー内をつっきる。
エスカレーターが何台も吹き抜けになっているホールを囲むようにビル全体に配置され、スーツ姿の人々が忙しなく行き交う。金融街のタワービルでは、パーティー仕様のワンピースを着ている私とプエルマが目立っていた。
「セキュリティゲートを通る」
お兄様はいくつもある従業員向けのセキュリティゲートではなく、そのエリアから少し離れていて奥まった所へと私達を案内する。壁面に収納された機械にLISSのセキュリティカードを通すと、セキュリティゲートと連動して、その先にあるエレベーターの扉が開いた。
私達4人を乗せて上昇するエレベーターは透明なので、エスカレーターやオフィスがよく見える。プエルマと2人でビル全体を眺めた。エレベーターは途中で止まることなく、最上階フロアも通りすぎた。
「兄さん、ヘリで移動ですか?」
「ああ」
「じゃあ、ボクがサブで入りますね」
「頼む」
エレベーターを降りると、目の前はオフィスとなっていた。カナルは、そこでお兄様からLISUへのルートの説明を受けている。地図でお兄様が示したLISUの位置は、ココから北西にある島だった。お兄様とカナルが最終確認までしたところで、『ヘリの整備が終わった』という連絡がオフィスに入った。
*****
「キレイ」
「ええ」
夕暮れから夜のとばりが降り、変わり行く景色をヘリコプターから眺めていたプエルマが突然そう言ったので、慌てて相づちをうった。プエルマが言葉を発したのは、アルアイラ邸以来だ。ずっとヘリコプターに乗るまでの間は無言だったし、怯えていた。
――ココまで来れば『呪いの美術品コレクター』がいないから?
プエルマがなぜこんなに『呪いの美術品コレクター』を恐れている理由はわからないけれども、今は極度の緊張感をプエルマから感じることはなくなっていた。
「この景色、物語で出てくる景色のままですよね」
「物語?」
「この国には、世界中の子供達が読んでいるお話がたくさんあるんですよ」
「私も、読める?」
「ええ、きっと」
小さく無数に光る家の明かり、その中央を流れる紺碧の河と二つの塔の橋、そして時計台。この国の中心部の夜景が小さく見えなくなるまで、じーっとプエルマは眺めていた。




