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l 出品者の孫娘の家*アルアイラ邸

 ジンが連絡を取り、出品者の亡くなった孫娘が住んでいた家にすぐ入れることになった。その家はオークションハウスの近くで、この国の貴族の邸宅が昔からあるエリアだ。充分歩いて行ける距離である。私達より先を歩くジンが、所々に特徴的な赤褐色のレンガを用いているタウンハウスの一角で立ち止まる。


「アルアイラ邸だ」


 ジンは私達に一言そう言うと、タウンハウスのドアの呼鈴を鳴らした。ドアの向こうで、この家の管理人と思われるヒトが私達であることを確認する。


「オーナー様から伺っています。どうぞ」


 玄関ホールの中央には2階へ上がる階段があり、孫娘の部屋はそちらにあると案内してくれた。このタウンハウスの間取りは典型的なジョージアンスタイルで、玄関ホールから見えるリビングには、孫娘と思われる女の子の写真が飾られていた。

 腰まであるストレートのブロンドに、内気そうで幼い顔立ち。瞳の色はブルーグレーで違っているけれど、背格好や雰囲気がプエルマに似ている。


「ルナさん?」


 カナルに呼ばれて、2階へと上がった。



*****


「みなさん、こちらです」


 プエルマに似た孫娘の部屋の扉を管理人が開くと、息を止めて震えながら後ずさった。その普通ではない反応に、そばにいたジンか「おい! オマエ大丈夫か?」と問う。お兄様と私が部屋の中を覗くと、部屋の扉の正面にある窓は開いていた。視線を奥に移すと、白いスカートとホッソリした足が宙に浮いていた。


 ――え? 何なの?


 存在を確認するために見上げようとしたら、お兄様の手が私の両目を覆った。


「見なくていい。ブルーダイヤのチョーカーをしているってことは、彼女がターゲットだろ? 両目の眼球がないから、体内にはいない」


 お兄様の話から、容易にどういう状況か察しがついた。もし、出品者がこの部屋を訪れていたら、偽りといえども『孫娘の2度目の死』を目の当たりにすることになる。


「……あれほど他人と話してはいけないと言ったのだが、プエルマは言いつけを守らなかったのか」


 私の近くで聞こえた声にゾクッとした。ミドナス・アルカードの家で聞いた声と同じだ。

 お兄様はスーツの中のガンホルダーからコルト45口径を取り出しながら、私をカナルの方に押して「扉から離れろ」とジェスチャーで指示を出す。お兄様の弾倉の装填と同時に、ジンがすぐに私がいた場所近くの壁側に立ち、ワルサー40口径を構える。

 ズルズルとヒモの下がる摩擦音が部屋の中で響き、その後、粘度のある液体の音が続いた。


「話し……かけられたの、あの子に。お友だちに……なりましょうって」


 プエルマが人形の体に戻り、言葉を口にする。ぎこちなく歩きながら私の方を指した。それを見たジンが、私に確認するように「キメラか?」と聞いてきたので、頷いた。


「もう少し知能を分けておくべきだった。作り直すか」


 呪いの美術品コレクターがそう言いながらプエルマに近づいて行くが、プエルマは顔を恐怖を感じているかのように歪ませて逃れようと距離をとる。


「助けて」


「プエルマ、おまえを助けるヤツなんかここにはいないさ」


 ヒャヒャヒャと引き笑いをしながら、部屋の中をぎこちなく逃げ惑うプエルマを追いかけている。


「助けて」


 部屋の外へとプエルマが出ようとするが、お兄様が行く手を阻み、銃口を向けた。


「キメラ人形の嬢さん、そいつの言うとおりで誰も助けられねぇんだ。悪いな」


 ジンが容赦のない言葉をプエルマに浴びせた。


「おい、やめろ! 人形を壊すなよ? 助けを求めるヤツに銃口を向けるなんて、普通の人間じゃないな」


 呪いの美術品コレクターが焦ったように早口で言う。


 ――まだプエルマを使って何かをしようとしている?


「キメラを含めた事業は撤退することが決定している。所属先と管理責任者を言わなければ、この場で処分をする」


 呪いの美術品コレクターは黙り、プエルマを追うことをやめた。銃口をつきつけられたプエルマを見たまま動かない。プエルマは、お兄様の言った言葉がイマイチ分かっていないらしく、所属先をまったく言おうとしないので、私が「プエルマさん、所属先を言ってください」と促した。


「しょぞくさき?」


 テスと話している気分になる。


「プエルマさんが生まれた場所です」


「私が、生まれた場所は……グレーの床と、壁にエンブレム、文字はLIS……」


 プエルマが言い終わらないうちに、呪いの美術品コレクターが片手で空を切る。それを合図に、家具や装飾品がお兄様の方に飛んで来る。お兄様が片っ端から撃ち抜くと、銀節色の液体がドロリと流れ出た。


「兄さん! ココにある家具や装飾品、すべて仕込み済みみたいです」


「プエルマさん!」


 この部屋の外の壁にかけられた装飾品もカタカタ動き出す。まるでポルターガイストがいるようだ。私はお兄様の背後から手を伸ばし、プエルマの手を強く引いて部屋の外へ出した。


「おい!」


 ジンが何を考えてると言いたげな顔をしているし、カナルが横でプエルマを睨みながら「ルナさん!? キメラをどうするんですか?」と聞く。


「カナルさん、安全に逃げるには人質が必要です。早く逃げますよ?」


 プエルマの手を引き、廊下を走り出した。まだキメラ同士で連携がうまくいってないのか、廊下の装飾品は飛んで来ない。

 こんなときに笑わせるつもりはないのに、私の行動を見て、「そうきたか!」と勝手にお兄様が笑っている。


「ホントなんて女だよ! いい性格してるよ、オマエ!」


 そう私に失礼なことを言うジンが管理人を起こしながら、カタカタ動いている物を撃ち抜いていく。次々に銀節色の液体が廊下に広がり、目玉が転がった。

 私達は、急いでアルアイラ邸から脱出した。



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