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はじめてのおつかい2

 寄港する街並みを遠くから見たくて、私とフィリーオ兄様は少し早めの朝食をとり、キャビンのバルコニーにいた。

 船がゆっくりと港に入っていく。

 バルコニーの手すり越しにいる私は、振り返ってベンチに座っているお兄様を見た。


「お兄様! 見てください!」


「うん、それよりも、あまり乗り出さないでくれ」


「あ……はい」


 はしゃいでいた私は、お兄様の隣に大人しく座った。

 もうすぐ船が接岸するので、乗降口が混み合う。別に急ぐ旅ではないし、オプショナルツアーに参加する訳でもないから、しばらくバルコニーで景色を堪能してから、お兄様と遊びに行くのだ。





*****




 初めて訪れたバルドーヴィストリーの宝石店は、迎賓館のような建物だった。高く黒い柵で出来た門の前に、バルドーヴィストリーの濃紺の制服を着ている男の人がいた。


「ようこそ、バルドーヴィストリーの店へ。お名前をお伺いします」


「こんにちは、瑠梛・ロークスです」


「ロークス様、お待ちしておりました。どうぞ」


 門が開き、私はフィリーオ兄様と一緒に店内に入った。

 店内には、いつも自宅に出入りしていて、私もよく知ってる女の人がおり、「お久しぶりです、瑠梛さん」と、早速声をかけてくれた。


「こんにちは、母が頼んだ物を受け取りに来たのですが」


「ええ、出来ています。今、持って参りますので、こちらにお掛けください」


「はい」


 私とお兄様がカウチに座った数分後には、お母様に頼まれた2つのラウンドカットのダイヤモンドルースが目の前のテーブルに置かれていた。私の手のひらに収まらないほどの大きさだ。

 1つ1つ確認事項を3人でチェックし終わったところで、私が持ち帰りやすいように店の人が梱包作業に入った。


「ここまでの大きさだと、カットが大変でしたね」


「フフッ、バルドーヴィストリーに頼まれて正解ですよ? 私達のカット技術なら問題なく石の魅力を最大限に引き出せますから」


 そう言って手渡してくれたお母様のダイヤの入った袋を大事に持ち、バルドーヴィストリー宝石店を後にした。


「ルナは、欲しい物はないの?」


 船に戻る途中で、突如お兄様に聞かれた。


「ええ、特に欲しい物はないです。お兄様とのお出かけが一番嬉しくて」


「そっか」


「ええ! あ……でも、今、欲しい物ができました」


 私は「こっちです」と言いながら、 フィリーオ兄様の手をとり、店先で様々なフレーバーのものを売っているポテトチップス屋さんへ向かった。


 ――こうしてお兄様とゆっくりできるのって、楽しい!


 きちんと何事もなく船に戻り、はじめてのおつかいを無事に終えた。

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