j ブルーダイヤの行方
込み入った話になりそうなため、私達はオークションハウスのロビーからカフェへと場所を移した。
カフェのテーブルで、私の言い分を聞いてもらう前に確認しておきたいことがある。オークションハウスのスタッフによる案内の途中で、プレビュー会場から抜け出した私は、『呪いの美術品コレクター』の容姿を知っているカナルやジンに、それらしき人物がいたか聞いてみた。
「変装していたか、今日は来ていないか……わからねぇな。とにかく、そういうヤツはいなかった」
「そうですか。私も『例のコレクター』の姿を確認することはできませんでした。その代わり、関係者の方にはお会いできましたので、良かったです」
ジンの話は予想通りで、『呪いの美術品コレクター』は来ていたハズなのだが、私達4人、誰も見ることはできなかった。そうなると、『呪いの美術品コレクター』は容姿の異なる素材をいくつか持っていると考えた方がよさそうだ。
「関係者に会ったって、まさか……あの女の子ですか!?」
私のすぐ横の隣のテーブルに座るカナルが、気がついた。
「ええ。お兄様からいただいたブルーダイヤのチョーカーは、先ほど知り合った彼女の行方を追うために、お譲りました。今、私が持っているもので他人に疑われることなく使えるものは、あのチョーカーしかなかったので」
「あのブルーダイヤなら、追跡するためのマーカーとしては最適だ。ということは、ブルーダイヤを渡したのは、『例のコレクター』が連れて来た子供か?」
テーブルを挟み、向かい側にいるお兄様の問いに頷いた。
「はい。『例のコレクター』の分身のようなことを話してくれました。身体的能力や知能などは必要最低限の機能しか与えられていないようです。それに彼女の体は、顔以外陶器製。他人と話さないように指示されていたみたいですが、体に触れさせないようにという指示はなかったようです。それと、プエルマ・アルカードと名乗りましたので、ほぼ間違いないと思います」
「ホント、オマエはいい性格してるよ。誰から貰おうが、どんなに市場価値があろうが、関係ないもんな。確実にチャンスを自分のものにしていく徹底した合理主義はロークスの帝王学か?」
「さぁ、どうでしょう」
しみじみと改めて感心している様子のジンに、淡々と返事をしながらティーカップを口にした。
「でも兄さん、あのブルーダイヤの追跡って、具体的にはどうしますか? 目撃証言を集めるとかですか?」
「いや? 端末で追跡するだけだ。現在の位置は……あぁ、ココからまだ10メートルも離れていない。しかも、まだ移動中だな」
「発信器つきかよ!」
ジンに話していいか私には判断がつかなかったので、そのことを伏せていたけれど、お兄様はアッサリ話してしまう。ジンが「まったく、アレに細工するなんて……稀少価値とか関係ねぇのかよ」と呆れていた。




