e 物語が生まれる国
私達はLISHの特殊車両で、緊急車両だけが通ることのできるサービストンネル内を走り抜け、地上に出た。
「さすが……いろんな魔法使いの物語が生まれる国ですね。本の中に入ったようです!」
「ルナさん、何回もココに来てるのでは?」
「空港からロークス邸に直行しまうので、こんなに遠くからこの景色を見るのは初めてなんです」
華やかだけと、厳格な雰囲気を持つ様々な物語の舞台となった街を車窓から眺めていると、お兄様が「もうすぐ地下に入る」と私達に告げた。
「ロークスの軍事施設ですか?」
「ああ」
――きっと、LISUだ
こんなに調べものが順調なのは久しぶりで、嬉しくなってしまう。
「ルナ、何かやろうとしてる?」
「え?」
「ときどき、ルナは油断できないことがあるから」
そんなに表情に出てたのか分からないけれど、指摘が入った。こんなところで疑われたら、行き先が変更されてしまう。
「お兄様、私のこと誤解していませんか? たった10歳の子供に何かできるとでも?」
お兄様は「そうだな」と含み笑いをし、私の方をチラッと見たカナルが窓の外に視線を向け、独り言のように「今ので企んでいることがバレたみたいですね」と言う。
「悪いけど、行き先を変える」
「兄さん、ココから北にある王立公園近くのホテルに隣接しているタワーにボクの家があります。ロークス邸より近いです」
「わかった」
私が口を挟む間もなく、お兄様とカナルによって行き先が決まってしまった。
*****
カナルの自宅の天井から床まであるガラス窓から、ゴシック様式の建築物と緑に覆われた公園、どこまでも流れる河に沿って、遠くの景色を眺めていた。
「ルナさん、すねてます?」
窓から離れた場所にあるカラフルなパッチワークのベルベットソファに座ったカナルが聞いてきた。
「いいえ」
「それなら会場に潜入するんですから、準備しないと。そろそろ兄さんが戻ってきますよ?」
「わかってます」
平静に言ったつもりだったが、「やっぱり、すねてるじゃないですか」と言われてしまう。
――だって、カナルがあの時言った独り言がなければ……
そんなワケはないけど、ココロの中で八つ当たりした。
お兄様は、私達をカナルの家があるタワー内で特殊車両から降ろし、「1時間後に戻る」と言って、そのままどこかに行ってしまった。お兄様が戻ったときに、すぐに出掛けられるように準備していれば時間ロスはないけれど、気乗りしない。
「まだオークションのプレビューまでには、時間はありますよね?」
「はい」
「それなら、少しだけ外出するのは大丈夫ですよね?」
「ダメですよ! 前にそうやってジンに誘拐されたじゃないですか!」
「ジンは、ココにはいないから大丈夫ですよ? 心配し過ぎです。ココの建物内から外には出ないので」
「……ココの中だけなら。約束ですからね?」
「わかってます」
私はカナルの自宅から専有廊下へと出て、隣のホテルに向かった。




