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21 黒歴史の追加

 雑木林の間に隠すように止めてあったバイクに私を座らせたあと、お兄様はバイクのケースから小型のアタッシュケースを取り出して、信号拳銃をしまった。続いて、ヴィラ・ロークスとサバンナ・ロークスに連絡を入れる。ミドナス・アルカードのアトリエにある人形たちは、他のキメラの器になる可能性があるが、所有権はロークスにないため注視・追跡するということになったようだ。


「カナルさんを呼んだのは、お兄様ですよね? いつ、お兄様はミドナス・アルカードのことを知ったのですか?」


「昨日の深夜だよ。この国に来てからルナの様子はずっとおかしいし、シャワーを使っていたら、曇りガラスに指で書いたような文字が浮かび上がった」


 そうだった。一度曇りガラスに指先で書くと、その部分は付着した油で蒸気をはじき、石鹸で洗い流さない限り文字は残る。もし知られたくないなら、ちゃんとバスルームから出ていくときに消しておけば良かったのだ。


「それに、普段やらない行動をすると、すぐに何かを隠そうとしていることがバレてしまうもんだよ」


「普段……やらない行動、ですか?」


「例えば、バスローブを脱ぐとか」


 すっかり忘れていた。お兄様がココにいる時点で、結局、あの行動は意味がない。


「職業病なのか、そういうことが起こると、相手に悟られないように自然な動きで、まず周辺での変化がないかを確認する。背後にあった地図は、僅か数ミリぐらいしか見えなかった。ローブを脱がなければ、完全に隠れていたから気づかなかったかもしれない」


 ――バスローブを脱がなければ、バレなかった!?


 ――ショックすぎる


 また記憶の底に封印したい黒歴史を作ってしまった。焦ったがための判断ミスだ。そういえば、今まで、お兄様相手に誤魔化そうとして成功したことがない気がする。それより、浅はかで軽薄な行動をしてしまった自分が恥ずかしい。


「顔が赤い」


 顔を覆う私の両手に手を重ね、お兄様が笑う。


「もう、何も言わないで。そっとしておいてください」


「そんなに恥ずかしがらなくても。僕になら構わないけど、この手段を他人に使うのはやめてもらいたいから、釘を刺しただけだ」


「そんなこと、やりません!」


 頬を膨らませて怒ると、涼しげな表情で「ならいい」とお兄様に言われる。


 ――ぜったい、二度とやらない!


 そうココロに誓った。

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