探りあいの会食
避難訓練が終わり、夕食の時間になった。私とお兄様がレストランに行くと、指定のテーブルには桐谷さんと奈月さんがいたので、すかさず探りを入れる。
「こんばんは、船旅はいかがですか?」
「とっても楽しい! ね?」
奈月さんが同意を求めると、桐谷さんがグラスを傾けながら頷いた。首尾は上場のようだ。船旅を気に入ってくれている。
ここに来るまで2人とスレ違うこともなかった。大型客船だから当たり前かもしれないが、きっとステキな写真を色んな場所で何枚も撮っていたせいに違いない。そう思っていた。しかし、次のお兄様の質問で、その考えが間違っていたことが判明した。
「いい写真は、撮れた?」
「うーん、やっぱりピンと来ないんたよなぁ」
「うん、わかる! ワタシもそう!!」
「躍動感のあるのを撮りたいんだけどさ」
「うん! ぐっときて、『これだ!』って思う鳥がいないんだよねー」
桐谷さんと奈月さんが交互に言う感想に、私はガックリと肩をおとした。
――そんなにサバンナの動物がいいの!?
――それなら一層のこと、2人をサバンナに閉じ込めて音信不通に……
「閉じ……込める?」
――そうよ! ブラック企業もビックリのヘビーな仕事を馬車馬の如く、サバンナの地でやって頂くのよ!
「ルナ?」
私の隣に座っているフィリーオ兄様に呼ばれ、ハッとする。ジッと見つめていた目の前のテーブルのグラスから慌てて視線を外した。
「なんでもありませんよ? お兄様」
新たな作戦が無意識のうちに声に出ていたようだ。イケナイ!
よそ行きの表情を作ってお兄様と目線を合わせると、私の方に体を寄せ、「また何か企んでるの?」と無声音で言ってきた。
――お兄様に怪しまれている! マズイ……
私は、笑顔を標準装備しながら「いいえ、勘ぐりすぎデス」と、2人に聞こえないように小声で答える。
「ふーん」
「…………」
――ナニ コノ 腹ノ探リ合イ
一見、4人で和やかに話をしているように見える中、最初に運ばれてきたプレート――カナッペを食しながら、お兄様と私の攻防戦が続いた。
なんとか4人での食事を終えたが、私はゲンナリしていた。お兄様の罠を張り巡らされた変化球に富む巧みな話術によって翻弄されたにも関わらず、新たな作戦に繋がる情報をちゃんと守りきった私はエライと思う。




