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11 ごまかし

 ――男か女か性別不明


 ――20歳以上ということ以外、本当の年齢を誰も知らない


 ――職業は持っていないが、ありとあらゆる職業知識を有する


 ――個人的収入はないが、資産は潤沢


 ――呪われたものこそ美しさを感じるヒト



 そして、魅了された美しいコレクションは物だけでなく、ヒトにも及び、その生死は問わない。


 今まで正体が分からず滅入っていた。だけど、相手が分かれば自分のやるべきことが見えてくる。『引きこもり』は中止だ。こちらも仕掛けていかなくては、じわじわと追い詰められていく。そして、ますますフィリーオ兄様には言えなくなった。


 ――あのコレクターは……きっと、お兄様を一目でも見たら欲しくなる



 地図を元の場所に戻そうと手にしたとき、「水浸し?」というフィリーオ兄様の声が部屋の外から聞こえてきた。体が、びくん、と震える。慌てて来たので、部屋の扉は開け放したままだった。自分の行動を後悔する。お兄様は僅かな変化も見逃さない。見て見ぬふりをすることはあっても。


 ――地図を気づかれないように戻すために時間稼ぎしないと


 そう思ったときには遅かった。


「ルナ、何かあったか?」


 扉に手をかけたお兄様が立っている。私は、ゆっくり振り向きながら、片手でバスローブの前を合わせ、もう片方の手を後ろ手に地図を本棚の空いてるスペースに乗せた。


「いえ、何もないです。バスルームに着替えの下着を用意するのを忘れてしまって」


「ルナ、下着のストックはソッチにはないだろ?」


 本棚とクローゼットは離れていて、確かに不自然だ。


 ――鋭い! やっぱり誤魔化しきれない?


 内心焦りながら、不自然ではない言い訳をフル回転で考える。


「……濡れた体でクローゼットには入れないですから、コチラでしばらく待ってから取りに行こうかと思ってたんです。でも、お兄様が来てくださったので、待つ必要はなくなりました」


 バスローブの前を合わせていた手を外して、スルリと脱いだ。バスローブが足元にパサリと落ち、お兄様の視線が私の顔から下へと移った。ちょうど私の背中にある本棚の地図に、お兄様の目線がいってないことを確認する。


「……お兄様、着替えさせてくださいませんか?」


 なんとしても地図を戻す時間が欲しい。両手を胸を隠すように組み、目を伏せ、「このままでは、風邪をひいてしまいますので」と、早くこの場からウォークインクローゼットに行って貰うように言葉で促した。

 無表情なお兄様の沈黙が、私の緊張感を高めていく。


 ――不自然な言い訳だった?


 苦しい言い訳でも押し通すしかない。


「フィリーオ兄様?」


 沈黙に耐えきれず、もう1度お兄様の名前を呼ぶと、お兄様は無言でウォークインクローゼットに向かった。


 ――なんとかなった!


 クローゼット内で引き出しを出し入れする音がしている間に、急いで棚に横置きにしていた地図を音を立てないように元の位置に戻した。すぐに本棚から離れ、クローゼットの前でお兄様を待った。


「ルナ、僕の肩に手を」


 クローゼットから出てきたお兄様は、私の前に膝まずいた。スルスルと着せてくれた。もう何度もこうして着せて貰っているので手慣れている。


「ありがとうございます、お兄様」


 お兄様の肩に手を置いたまま、顔を近づけて耳元で囁いた。




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