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9 繋がる予兆

 ひとすじの飛行機雲が描かれた青空の下、凱旋門や広場を抜けて走り続けるバイクから見る景色は、車から見るものと違って見えた。ココを訪れるときにいつも通っているメインストリートだけではなく、お兄様は少し狭い道も通ったりしてくれるので、今まで見たことのない地元の店が並ぶ生活感の溢れた街並みを眺めることができた。


『ルナ?』


 インカムを通して呼ばれたので返事をした。


「お兄様、どうかしましたか?」


『静かすぎるし、体温が上昇してるみたいだったから、眠っていないか心配になった』


 ずっと無言で動かず、お兄様の背に体を預けていたので、様子を確認したかったようだ。


「大丈夫です」


『ならいい。もうすぐ着く』


「わかりました」


 お兄様の言うとおりだ。いつの間にか橋を渡っていて、周りの景色が7区の見慣れた住宅街になっている。


 ――画家の皆さんの集まりにだけ参加して、ずっと部屋に引きこもろう


 そう決意した。



*****


 お母様の関係で私の服も見立てて貰っているスタイリストさんにお願いしたおかげで、服の心配はなくなった。夕食が終わる頃にはヴィラ・ロークスに届けられた。そして、お手伝いさんの手によって、私の部屋にあるクローゼットの中に今回現地調達した服がすべてセットされていた。

 お兄様は新しいバイクの調整で、夕食後はガレージに籠っている。そのため、私1人でナギラさんを玄関先で迎えた。


「ようこそ、ナギラさん!」


「お招きありがとう。それにしても、すごいわねー。さすがロークス一族の邸宅だわ」


 ナギラさんが玄関ホール内を見回した。


「ナギラさんのお部屋は2階になりますので、荷物をお預かりします」


 そう言ってナギラさんの荷物を受け取ったお手伝いさんが、先に部屋へと持って行った。私はナギラさんを連れて、滞在中に利用すると思われる部屋を案内していく。


「こんばんは、いらっしゃい。警察の方は済んだんですか?」


 ダイニングを案内したところで、お兄様と鉢合わせた。


「それが……さらにややこしいことになったのよ。侵入者がパトカー移送中に服毒自殺したから」


 ――服毒自殺!?


 ナギラさんの衝撃的な言葉に思考が固まる。私の回りで次々と起こる出来事が、体を縛りつけ、ドンドンとどこかに引きずり込まれていくような恐怖を感じる。


「服毒……? 口腔内に仕込んでいても、そんなにすぐに毒は体内に回らないし、胃で溶ける物ならまず生体防御反応が起こるよな。それにすぐ胃洗浄するハズだから助かる確率は高い。ということは時間的に考えると、ナギラ画伯に会った直後に腸溶性カプセルに入った毒物を飲んでいたってことになるな」


「その通りよ、とんだ侵入者だったわ!」


 お兄様の話は正解だったらしい。ナギラさんは補足説明なく、頷く。


「侵入者が服毒するほど逃げられないと思わせたってことか……。ナイフを何本も投擲されるとは思ってなかったんだろうな」


「正当防衛よ! 不可抗力!」


「それより、侵入者の目的の方が気になるな」


「それは死んじゃったから分からずじまいね。真相は闇の中で、警察のヒト達もガックリきてたわ」



 お兄様とナギラさんの会話を横で聞きながら、体温が下がっていく。一連の出来事は、すべてが繋がっている気がする。そして、張り巡らされた糸に引っ掛かり抜け出せない。それは『ミドナス・アルカード』という女のヒトに感じたゾッとした感覚に酷似していた。

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