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8 それぞれの現地調達

 まだナギラさんは警察とのやり取りがあるため、いったん私達は別れることになった。 対応が終わったら、荷物を持ってヴィラ・ロークスに来ることになっている。


「さて、ルナの服を調達しないとな」


 ナギラさんの家から中庭に出ると、お兄様は歩きながら私に手を差しのべる。


「そうですね。ナギラさんの家にある私の荷物は動かせませんし、ヴィラ・ロークスにある私の服はワンサイズ小さめなので、もう着られないハズです」


 私は自分の手を差し伸べられたお兄様の手に重ねた。


「成長期だからな。調達方法は、どうする? スタイリストに連絡を入れて全部持って来てもらうか、それとも僕とブティックを回るか……今の時間帯なら好きな方を選べる」


 この国に来てから尾行されたり、宿泊予定のナギラさんの家に侵入者が入ったりしていることを考えると、いち早くヴィラ・ロークスで引きこもる方が安全な気がする。


「では、スタイリストさんにお願いします」


「わかった、連絡しておく。その前にルナには僕に付き合ってもらうよ?」


 これからどこかに行くらしい。お兄様の用事は、そんなに時間はかからないだろう。私は頷き、お兄様と一緒にナギラさんの家の中庭から閑静な通りに出た。



*****



「お兄様?」


「なに?」


「このバイクは……?」


 連れられて行った先は、バイク店だった。そこまでは予想していた範疇で問題ない。しかし、その後が私の予想を越えていた。てっきり見るだけだと思っていたら、新しい大型バイクを目の前に「出発するから乗って」と言われたのだ。


「このバイクのメーカー?」


「いえ、そうではなく……。お兄様の所有物ですか?」


「あぁ、そういう意味か。家出だから、1番効率がいい移動手段が必要だろ? だから買った」


「何も既にお兄様専用のバイクがあるのに、このバイクを現地調達しなくても」


「あのバイクのことを言ってる? あれは社用車だから、遊びには使えない」


 何かの冗談かと思ったけれど、本当に買ってしまったらしい。


 ――しかも私の分まで一式揃ってる


 ヘルメットだけでなく、ペアリング済みの新しいインカムマイクまで渡された。このインカムも「お兄様の遊びのためのもの」らしく、前に使っていたインカムと違って、機能は通話機能1つしかないようだ。


 ――でも、お兄様ったら『家出』なのに、自分のカードじゃなくて家族カードでバイクを現地調達したら、おじ様に行き先を知らせているようなものだけど


 バイクの後ろに乗せられながら、そんな風に疑問に思う。


 ――もしかして、ワザと?


 お母様の『フィリーオ兄様ニセ反抗期家出計画』は、失敗しそうな気配がした。

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