7 予定変更とフラグクラッシャー
電話で連絡を入れたナギラさんの家に警察が来て、侵入者の男のヒトの引き渡しと現場検証が行われた。事前にナギラさんの家に届いていた私のトランクも侵入者の手にかかっていた。ただ、目当ての物が見つかる前にナギラさんの反撃にあったらしく、何も取られていなかった。
侵入者の目当ての物が何であるか気になるところだけれど、その答えは警察に委ねられた。
「せっかく来てくれたのに、悪いわね。あなたのトランクや中身も証拠品になっちゃったから動かせなくなってしまったし」
まだ部屋の中には警察の方がいて、私達3人は部屋の外にある階段で話をする。
「いえ、ナギラさんの方が大変なことになってしまって……」
「ココは元々がアトリエや工房用の建物で居住用じゃないから、セキュリティが少し落ちるのは仕方ないのよ。治安がいいエリアだから、油断してたわ。せめてものの救いは、侵入者がいたときに、あなたがウチに滞在中じゃなかったことね。もしそうだったら、それこそ『一大事』よ」
「これからナギラさんは、どうされますか? ココは現場検証でグチャグチャですけれど」
「そうねぇ……」
荒らされた部屋を眺め、しばらく沈黙が続いた。ナギラさんが途方にくれている。
「もし良かったら……ロークスの家に来ませんか? ココから少し離れた場所ですが、部屋はいっぱいあるので。お兄様も一緒だから安心です」
思いきって言ってみたが、「うーん」とナギラさんは渋っている。私がお兄様の方を見ると、「僕は構わないけど」と言ってくれた。
「ありがたい話だけど、私は親族じゃないから、まずくないかしら?」
私は再びお兄様をチラっと見上げたあと、ナギラさんに「お兄様は紳士ですし……」と言った。けれど、この言葉だけでは『お兄様がナギラさんにとって安全である』という説得力が足りない。
「それに、大人の女のヒトには興味がないロリ……」
ナギラさんへの説得の言葉が終わらないうちにお兄様の手が背後から伸びて、「ルナ、黙ろうか?」という声とともに、口もとが覆われた。
「ごめん、ロークスさんが良い人なのは知っているけど、今の情報は少し引いた」
「ええっ!?」
「私は何も聞かなかった、いいわね?」
ナギラさんが私に念押しする。『少し』と言ったけど、あからさまにドン引きしているのが分かる。
「…………」
無言でお兄様を見ると、「いや、これが一般的な成人女性の正常な反応だから。そんなに驚くことないだろ」と、言われた。そして、今の話は初めからなかったかの如く、お兄様とナギラさんは宿泊先への移動手段や、今後の予定について打ち合わせを始めた。
――うーん、これが、いわゆる『大人の対応』?
――ナギラさんが安心できると思ったんだけど、今のは言ってはイケナかったってこと?
以前、カナルから『他のループでは、ナギラさんが恋人だったときがある』という話を思い出した。そして、ナギラさんの反応から、私の発言せいで将来的に発生する可能性があったナギラさんのお兄様への好意がゼロになったことを悟った。もしかしたら、お兄様の友人になる可能性も低くなってしまったかもしれない。
――だって、友達の奈月さんと違って、ナギラさんは外見や性格がどんなに良くても『まったく年下好きのヒトを受けつけない』って、知らなかったんだから!
――私のせいじゃない、私は悪くない
『お兄様の大人の恋』に憧れているカナルには、絶対に秘密にしておこうと思った。




