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予想外の展開

 船内のメインホールは1階から3階までが吹き抜けになっており、透明なエレベーターと、それを囲むように左右に半円形の大理石の階段が伸びている。ホールの天井にはシャンデリアがいくつもあり、華やかだ。


「お兄様、避難訓練まで時間があるので、こちらで……」


 パフォーマーのイベントに人だかりが出来ているのが見えたところで、誘った言葉を途中で濁した。


 ――うそ! なんで?


 パフォーマーの奥に画家ナギラがいた。緩やかなカーブの壁沿いに、イーゼルを立て、椅子に座りながら向かい側にいる乗船客の似顔絵を描いていた。


 ――どうして……ナギラ画伯が!?


 ケンタウロスのモデルの人はココにはいないし、フィリーオの実験メモに繋がる描きかけのクロッキー画は、私が厳重に保管している。

 その事実を思い浮かべて、心拍数が上がった心臓を落ち着かせた。

 画家ナギラのスポンサーは国外だ。しかし、絵の勉強で世界中を回りたいなら、絵を描きながら船で旅する方が効率いい。おそらく、そういうことなのだろう。



 ――でも、よりにもよって……ナンデコノ船!?



 無理矢理フラグを折ったせいか、予想外の展開になった。できる限り、画家ナギラに私たちがいることを気づかせないように行動しなくてはイケナイ。

 ミッションの難易度が一気に上がった気がする。


 ――まずは、この場所から撤退!! お兄様を近づかせないようにしなくては!


「お兄様、やっぱり外の景色を見に行きませんか?」


「え?」


「今回のイベントは、つまらなさそうなので」


 お兄様の手を繋いだまま、クルリと方向転換し、競歩をしているか如くの勢いで、そのまま外周デッキに出た。


 ――さ、寒い! 寒すぎる!


 日が沈みかけ、かなりのスピードで進んでいる船の外周デッキには、冷たい海風が強く吹きつけていた。

 外に出ることを想定していなかったから、コートをキャビンに置いてきてしまった。


「ルナ」


 そう私の名を優しく呼んで、フィリーオ兄様は自分のジャケットを脱いで私に着せてくれた。袖口から手が出ないほどブカブカだ。


「ありがとうございます」


 私の言葉に笑顔で返すと、お兄様は柵越しに遠くの景色に目を向け、無言で眺めていた。


「お兄様は、見たかったですか?」


「何を?」


「さきほどのホールでやっていた……」


「あぁ、いや? 人混みは苦手だから、こっちで静かに景色を見ている方がいいかな」


 お兄様のシャツの襟が、強い海風のせいでバサバサ揺れる。かなり寒そうだけど、大丈夫だろうか。強引に連れてきたことを後悔し始めた。

 しかし、避難訓練は外周デッキでやるので、このまま待機続行となった。


 ――お兄様、ごめんなさぁーい!


 私は心の中で何度も謝った。

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