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帰還2*フィリーオ・ロークス

 腕の中にいたルナが消えた。


 非現実的なことが起き、混乱する。ただルナから口移しで返されたデータチップの感触が、現実であることを物語っている。


「カナルか……」


 解決の糸口を自分で手繰り寄せるしかない。カナルの元へ急いでバイクを走らせた。

 ルナは、「置いて行くな」と文句は言うし、危険だからと思ってワザと置き去りにしても追いかけてくる。しかもタイミング良くヤバくなりそうな時に現れるもんだから、迷惑とは間違っても言えない。何があっても色んな手段を使ってついてきたのに、今回は初めから諦めている感じだった。しかも、肝心な情報を与えられたタイミングは最悪で、消える直前に大まかなことしか言わなかった。


「とんだ裏切りだ、ルナ・ロークス」



*****



 ロークスから召集がかかっているため、パーティー会場から空港に来たカナルと合流する。ラウンジに入り、カナルを見つけた。


「兄さん?」


 カナルが座っているソファの、テーブルを挟んで横にある一人掛けソファに座る。


「カナル、ルナが消えた」


「……消えた?」


「『カナルの願いが叶ったから、時間は繰り返されることなく、未来に向けて流れ出す。ルナは元の時の流れに還る』と言っていた」


「…………」


 カナルの目が大きく見開き、みるみる涙がたまっていく。そして、眉間にシワを寄せ、片手で目を覆った。一連のカナルの行動を見て、ため息をついた。


 ――これは解決するまでに時間がかかるな


「ルナをどうやって連れてきた?」


「術をかけて……」


「それを再度実行することは?」


「可能ですが……ルナさんが『還る』って言っているってことは、それを望んではいないと思います。ルナさんならハッキリ言うから……」


「『還る』というのは、あくまで予想される事象を言っただけで、本人の意思は別だ。それに、このままだとルナは1つ重要な約束を反故にすることになる。まぁ、面倒なことだし、厄介な案件だから逃げられても仕方ないかもしれない」


「重要な約束……ですか?」


 泣いていたカナルの雰囲気が変わった。涙声が引っ込み、いつもの口調だ。そこで畳み掛けるように使える話を引っ張り出した。余裕がないのは自覚している。


「彼女は僕の体がロークスに帰属するのを知って、『僕の体を自由にする権利を貰って、いつか"自分の体だ"って言えるようにする』と言ってたけど、アッサリ見限られたかもしれない」


「ルナさんは、そんなこと約束してたんですか!? しかも期待させるような約束をして、兄さんを捨てていくなんて……あれ? 捨てていく?」


 カナルの言葉が刃となって、ジンワリ突き刺さる。


「……カナル」


「あぁ、すみません! このパターンは予想外すぎて。てっきり他の女性と親しくしているところを見られて誤解されて捨てられるとかのパターンは考えたことがありますが」


「それこそ、ないだろ」と、二度目のため息をつく。


「それより、術のことを」


「そうですね」


 ルナが帰って来たら、『自分勝手だ』と言われるかもしれないが、このまま引き下がることはできない。

 彼女の成長にあわせて、これまで何度も関係を繋ぎなおしてきた。今、ぶち当たっているように、たとえ関係が物理的に切れたとしても、また繋ぎなおせばいい。

 詳細を聞き、カナルの術を使ってルナを呼び戻す方法を実行した。

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