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潜伏開始2

 通路は薄暗く、窓のない壁だけの狭い螺旋階段となっていた。まるでドーム型の屋根の下の壁に沿っているような作りだ。

 そのまま私達が下りて行った階段は、突然、囲んでいた壁がなくなり、手すりのないステンレス様の螺旋階段になった。視界が開けたので、その先を見ると、階段は片側半分だけ岩壁に埋め込まれていて、やはりココも中央部分が吹き抜けになっている。しかし、地上にある建物内よりも高さが何倍もあり、下を見てもヒトがいるかどうか確認することができないほどの高さだ。


「山を人工的に切り開いて作った空間ですね」


「あぁ」


「ココから培養プラントを見つけ出すのは、結構大変な気がします」


 私達がいる場所から5階分ほどの高さより下の方に向かってガラス張りの居室や実験室があるのが見える。かなりの部屋数だ。


「まともに探そうとすればね」


 お兄様の楽しそうな笑顔を見て、イヤな予感しかしない。ムチャはしないと思うけど、絶対、何か企んでいるに違いない。


「コッチだ」


 お兄様が高電圧危険マークがついた扉のハンドルレバーを回す。素早く中に入り、扉を閉めた。

 中には大きな発電機とグリーンのラインが光るタワー型の送電システムが何台も並んでいる。お兄様は送電システムを一斉にダウンさせ、さらに壁にある何かの制御システムをパネル操作した。あちこちでガシャンガシャンと次々シャッターが閉まっていく音が響く。シャッター音がしなくなったところで、お兄様が制御システムを銃弾で撃ち抜く。

 全ての部屋の灯りが消え、動いている機械のランプだけが点灯している。


「お兄様?」


 暗やみに慣れない目で、私はフィリーオ兄様を探すと、手を引かれた。


「もうすぐ非常用電源が供給される。電気を供給し続けなきゃマズイ機器にだけ送電されるから、電気が点いている部屋を探せばいい」


「それでも……たくさん部屋はありますよ?」


「ココに入っているデータ、覚えてる?」


 お兄様が私のベルトポーチをトンと軽く指先で叩く。この中にはジンのスティックデータしか入っていない。


「もしかして、あのよく分からない平面設計図のことですか?」


「あれは、ココを拠点に非常用電源の供給位置を示している。非常用電源が供給できる場所は、ココの部屋の真下、もしくは両隣りに位置する部屋のだ。全てに非常用電源を必要とする機器が置いてあるワケではないから、灯りが消えていない部屋を探せばいい」


「これはジンのワナでしょうか……」


「分からないけど、どっちにしろ培養プラントをどうにかしないとイケナイことには変わりない」


「そうですね」


 お兄様は小型のヘッドマウントディスプレイを装着すると、私の手を繋いで、部屋の扉から螺旋階段へ出た。螺旋階段を使って、ぐるりと向かい側に回り込み、ヘッドマウントディスプレイの望遠機能を使い、灯りが点いた部屋の内部をドンドン調べていく。


「あった」


 そう呟いたフィリーオ兄様は、螺旋階段にしゃがみこみ、ハーネスに付属しているワイヤーを引っ掛けた。


「すぐに戻るから、ルナはココにいる? それとも……」


「一緒に行きます! もう置いて行かないで」


 お兄様に抱きつくと、横抱きにされた。それからカツンという螺旋階段を蹴り飛ばしたお兄様の足音と共に、吹き抜けの空間にフワッと体が舞う感覚がし、ワイヤー音を伴うリペリング降下で私達は目的地の階へと急いだ。







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