貴方の髪を切らなきゃ
「日だまり」「鈍感」「渡さない」
日だまりで丸くなっていびきをかいている犬、と渡辺。お前仮病だったのかよ、心配してスポーツドリンク買ってきたのに。「あ、柳瀬。今日のプリント持ってきてくれたん?」この鈍感野郎め、と怒りを込めて投げつけたペットボトルを渡辺はすんなりキャッチして、悔しい。だから、プリントは渡さない。
「私服」「興味」「愛され上手」
「今日の服、かわいいね」「あ、これ私服じゃないんですよ」「これ、興味あるでしょ?」「ああっこれは!…興味ありませんよ、別に」「じゃあ今回は買わないでおこうか」「欲しいですけどね!」素直じゃない君は、愛され上手だね。しばらく経ってから「そうですね、モテモテです」と言う君の頬は赤い。
「雨」「くるぶし」「渡さない」
雨は止まず、マンホールから溢れた水は私のくるぶしに至るほど。腕に抱えた子犬ができるだけ濡れないように体をすぼめる。弱りきって、瞳の光は今にも消えてしまいそうだ。この命を天に明け渡さないように、いつまでも抱きしめていようと思った。いつまでも抱きしめていられると思った。
「メルヘン」「いっぱい」「夜明け」
薄い羽根がこすれる音は、銀細工の耳飾りが耳元で鳴るのによく似ていた。夜明けの空にいっぱいに飛び交う妖精達は、朝の光を避けるように西へと姿を消した。彼らは二度とここへ戻らない。メルヘンは、消えてなくなったのだ。
「濃淡」「天使」「空」
天井に描かれた空はまるで本物のような色遣いだった。だから本物の天使が現れても不思議ではないと思った。見上げた空はまるで絵画のようだった。だから天使が空へ登っていくのも不思議ではないと思った。しかし、一瞬で濃淡が変わる自然の絵画に天使の姿も永遠ではなく、僕を残してすぐに消え去った。