夜になってから花は咲く
「難破船」「指先」「触って」
難破船が浜に上がったから、行ってみよう。そう言われてワクワクしながら海へ行ったのに、浜には何にもなくて、沖のずっと向こうで難破船みたいな漁船が普通に波間を滑っていた。嘘ついたんだ。僕をつつく君の指先をそっと触って、それから思い切りひねった。この野郎、期待してたんだぞ。
「深海」「薄着」「寒い」
空は深い海の色をしていて、夕日はとうに私たちを見放していた。隣に立つ人が小さく震える。私はマフラーをきつめに巻き直した、横断歩道の向こうに立つ、季節にそぐわない薄着の女の子が私を見て、少し笑ったような気がした。
「手触り」「厚着」「お姫様」
暗くなる前に家に帰りたかった。信号待ちで立ち止まると風が私のスカートを強引にはためかせ、剥き出しの膝小僧を刺す。道路の向こう側に立つ厚着の群衆を眺める。手触りの良さそうなマフラーを巻き直す女性の仕草があまりに上品で、お姫様みたい。ふとそんな事を考える自分が可笑しかった。
「夜」「瞳」「悲観的」
僕は目付きが悪い。睨んでる訳じゃないんだけど、ぽっかり穴が開いたみたいな目だって言われる。君は、夜みたいで素敵だよって言ってくれるけれど、君の輝く瞳がもっと僕を寂しくさせる。
「仕事中」「好物」「満足」
「お仕事中でしたか?」「ちょうど一休みしていたところだよ」「では、おやつを持ってきたので、一緒に食べましょう」「ここで食べるおやつは格別なのです」膝の上で満足そうに喉を鳴らし、おやつをかじるミケの尻尾をひとなでする。これが私のご褒美。