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彼の願い

スルゲリの元へ行く。


まだ生きていた。

しかし、肩が完全に潰されていた。


流れ出した血の量が多すぎる。


肺も潰されているのかもしれない。


呼吸がおかしい。


私には治療する術は無く、そして街も遠かった。


マントを破り、潰れた肩をきつく縛り付けた。


「帰るわよ」


そう言って彼を背負う。

一刻も早く帰らなければ。


「   」


スルゲリが何かを口にした気がした。


「何?」


顔だけ振り向くようにすると、ナイフが落ちているのに気が付いた。

それを拾い上げる。


「さあ行くわよ」


冷静に行動しなければならない。


水などの必要な物を持ち、必要の無い物は全て置いていく。

猿頭はそのままだ。

何も余計な物を持つ余裕は無い。

私が倒れれば、それで全てが終わる。


私はただ、ひたすらに歩いた。






歩き続け、次の日に街に着いた。


街に着いた時、体が熱を持って言う事を利かなかった。


倒れ、目が覚めたのは翌々日だった。


その時には全てが終わっていた。


スルゲリは既に埋葬されていた。


スルゲリがいつから死んでいたのか私は知らない。


もしかしたらその日の内に死んでいたのかもしれない。


私は怖くて一度も確認しなかった。


彼が死んでいたら一歩も動けない気がしてた。


何も考えたくは無かった。






眠ると夢を見た。


猿頭が目の前にいる。


私はあの時と同じように動く。


その光景を何度も見た。


違う!


そうじゃない!


どうしてそう動くんだ!


叫びは届かず、私はやがて吹き飛ばされる。


スルゲリが戦っている。


彼の動きは私よりも滑らかだ。


私のように無理に飛び込んだりしない。


相手が動く線上に刃を置く。


それが相手自身の動きで傷を作る。


押しもせず、引きもしない。


相手の力で戦う。


綺麗だった。


そしていつも決まってあの場面で夢は終わった。






治療院を出たのはそれから5日後の事だった。

体はもう普通に動かせる。


スルゲリが埋葬されたお墓に向かった。

彼がどこの街の人なのかは分からなかったらしく、この街の墓地に埋められていた。


そう言えば彼の事を何も知らないな。


スルゲリと何を話したかを思い返す。


何だかどれも楽しかった印象だ。


墓地を後にする。

ここにあるのはお墓だ。

彼と話した事も彼が見せてくれた事も、全て私の中にある。


ギルドに顔を出した。

トカゲは私の顔を見ると、カウンターから出て来て抱きついた。

スルゲリが死んだ事を知っているらしい。


猿頭を倒してきた事を告げた。

そしてその証拠が何も無い事を。


運が良ければ、まだあの場所に死体が落ちているだろう。


私があの場所に行く事は二度と無いだろうけれど。


それでも懸賞金を出すと言ってくれたけれども、断った。

ふたりで受け取らないといけないお金だ。


私ひとりでは受け取れないよ。


そう言うと、トカゲは泣き出した。


トカゲが私とスルゲリの荷物を預かっていてくれたようだ。

橋の剣、壊れた銅革の小手、布革の小手、壊れた革鎧、牛革のベルト。

どれもボロボロだった。


そしてスルゲリの荷物はナイフだけだった。


他は状態が酷く、使い物にならなかったらしい。

血が、と言いかけてやめたのは私への配慮だろうか。


そう言えば彼はこのナイフを私に使って欲しいと言っていた。

最後まで。

あれはどうしてだったのだろうか。


預けていたお金も渡された。

スルゲリの分も合わさっていた。

要らないと言おうと思ったけれども、トカゲは絶対にこのお金は渡すと言って聞かなかった。


結局、壊れた物は処分する事にした。

また新しくするしか無いだろう。

革鎧だけは迷ったけれども、彼の願いはもっと良い物を使って欲しい、だったはずだ。

彼が願ったのなら、それを叶えなくてはならない。


彼は私にとって最初の他人だった。

私しかいなかった世界に初めて現れた他人だ。

新しく他人に出会う度に私は彼を思い出す。


私に出来るのはたったそれだけの事だ。






注文していたブーツを受け取った。

もう木の靴には戻れないな。

そう思う程に動きやすかった。


片方だけだったので、また古道具屋で小手を買い替えた。

何の革だか分からなかったけれども、動かしやすかったので良しとした。

ついでに見つけた弓も購入した。

やっぱり私の作った弓では威力が足りなかったのだ。

腕が良いんだからもっと良い物を、と言っていた彼の姿が思い浮かんだ。


鎧は前に一度剣を頼もうかと悩んだ鍛冶工房と靴を頼んだ革工房に頼んで協力して作ってもらった。

魔獣と戦う事を念頭に置いた鎧だ。

胸、腹、肩を鉄のプレートで、それ以外が牛革で出来ている。

体を守る部分を多層構造にして、衝撃から身を守るように工夫してもらった。

腰の周りがミニスカートのように革で覆われているのがちょっと気に入っている。

ちょっと重いかな、と思ったけれども、着て動いているうちにやっぱり慣れた。


しばらくはギルドで簡単な依頼を受けたり、森で鳥を落としたりして過ごした。

スルゲリがいなくなった事を気にしてか、トカゲも危険な仕事を勧めては来なかった。


装備も一通り揃った。


この街でやるべき事は終わったのではないだろうか。


ふと家に帰ろうかと思った。


どんなに揃えても、それを見て、褒めてくれて、一緒に話せる他人はいなくなってしまったのだ。


家の周りにはあの嫌な小人達がいる。


今はまだあの姿を見たく無い。


帰らなくても私の古くからの友達が家の周りにいるから荒らされる心配は無いだろう。


もう少し遠くを見ても良いのかもしれない。


ギルドでトカゲに話しかける。


「ねえ、荷運びの護衛って、まだ残ってる?」

手作りの弓矢 → 喪失 → 使い古されたトネリコの弓

スルゲリのナイフ

橋のトロワ

左手:銅革の小手 → 破損 → 何かの革の小手

右手:布革の小手

鹿革の粗いベスト → 破損 → 積層鎧

牛革のベルト

木の靴 → 鹿革のブーツ


スルゲリさん!

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