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ちょっとした英雄

またしても血まみれだ。

スルゲリに押されるようにして依頼人がやってくる。


私を見る目が完全におびえている。

さっき、トロールにおびえていた時よりも、おびえている気がする。

気のせいだと思う事にする。


「これはどうしたら良いのかしら」


ふたつ死体が並んでいる。


「そのままでいいさ。その内、獣の類いにあさられて、いつか消えてなくなる」


そんなものか。

街の近くでも、それでは前の森と変わらない。


「ただ、な」


そう言って、死体に近づくと、両手の親指を切り落とした。

それを適当に破った死体の服に包む。


死体を切り刻む趣味は無いので、眉をひそめた。


「これをギルドに持って行くと、報酬が貰える」


退治した証拠になるらしい。

これで、他の誰かがこの死体を見つけても、虚偽の申請を出来ない訳だ。


「他に変なのが出て来ても困るわ。早く帰りましょう」


血まみれなのが気持ち悪い。

それが本当の理由だった。






何事も無く、街に付いた。

依頼人はおびえたままだった。

このままあの森には二度と入らないでくれると、手間が無くなって良い。


街の入り口で半券にサインをもらい、別れた。

このまま街に入るのは気が引けたので、スルゲリに頼んで、桶に水を汲んで来てもらった。


一通り、血をぬぐい、ギルドに向かう。


「お。お帰り、ってなんかくさくない?それになんか汚いし」


うるさい。

私が一番気にしているんだから、余計な事を言わないで欲しい。


「終わったわよ」


私が半券を、スルゲリが切り落とした指の包みを出した。


「なにこれ?」

「トロールの蛮族が出たのさ」


スルゲリの言葉に、え?うそ?まじで?と返しつつ、包みを開ける。

中には指が4本入っている。


「うお、まじっぽい」

「ぽいじゃなくて本当よ」


嘘だと思うなら、あの山菜採りの男に聞けば良い。


だって、トロールだよ?とかブツブツと言っている。

隣にいた別の係員までもが覗き見ていた。


それほどの事なのだろうか。


裏に行って、何事か調べて来たトカゲが戻ってくる。


「はい。確かめました。トロール2体の討伐を確認しました」


そう言って、銀貨を並べていく。

60枚の銀貨になった。

これは、多くないだろうか?

価値基準が良く分からないけれども、最初の宿に200日は泊まれる。


「多くない?」

「多くない。トロールってのはそういうもの」


スルゲリが素面で言う。

入れる物が無いと言うと、トカゲが革袋をくれた。

サービスです、と言ってタダだった。


「あの、本当に危険度の高い依頼を受けてもらえませんか?」


さっきから口調が変わっている。

気持ち悪い。


「口調を変えないで良いわよ。気持ち悪いわ」


思うだけじゃなくて、口にする。


「ああ、そう。前にも言ったけど、今、腕のいい人本当にいないんだよね。出来たら、そういう依頼を受けてくれると、本当に助かる」


あんたも確かそうだし。そう言ってスルゲリにも話を振る。


「今日はもう休ませてくれよ。お嬢さんはお疲れだ」


疲れ以上に、血をちゃんと洗い流したい。


「そうだな。明日でいいよ。今日はお疲れさま」


ギルドを出ようとした時に、あ、ごめん!とトカゲが叫んで、山菜採りの護衛料、銅貨10枚をくれた。






宿に戻り、水場を借りた。

宿に風呂は無かった。


ある程度、洗い流した所でスルゲリが現れた。


「終わったか」


装備の手入れをしてくれる、と言うので素直に鎧を渡した。


「もう寝ちゃえよ。疲れただろう?」


小手と剣も渡せと要求してくる。


「スルゲリは私の召使いじゃないでしょう。私も自分で出来る事はやりたいわ」

「俺は今日は散歩に行ったみたいなもんだったからな」


それを聞いて、思い出した。


もらった銀貨の半分をスルゲリに差し出す。


「はい。これはスルゲリの分」

「お前、今の俺の話を聞いていたか?」

「聞いていたわ。あの時、私ひとりでは依頼人の事まで気を回せなかった。あなたが依頼人を受け持ってくれたから、気にせず戦えたのよ」


実際、戦っている時に、周囲に気を配ってくれる人がいるのと、いないのとでは大違いだった。

以前にそれで矢を受けた事がある。

あの時は本当に死ぬかと思った。


「周りを見てくれる人がいる意味をあなたは知っているでしょう?」

「そりゃあな」


睨むようにスルゲリを見る。

剣だって買ってもらわなければならない。

スルゲリにも収入は必要だろう。


「分かった。でも、こんなには貰えない」


受け取ると、半分だけ取り出して懐に入れた。


「後は自分のために使いな」

「あなたはいつもそれね」


ため息をつく。


「言ったろ。俺はアンと一緒にいるのが面白いと思った。だからそれだけでもいいのさ」


結局、その日は手入れをした後、そのままベッドに入って眠ってしまった。

寝入りに巨漢の叫び声が聞こえた気がした。






翌朝起きると、改めて剣を見た。

どこにも異常は無い。

最初の巨漢への一撃は思い返してみると、驚異的だった。

これなら革鎧ごとでも断ち切れるかもしれない。


部屋の中で軽く振ってみる。

部屋の中にいくつもの線を引く。

それだけで機嫌が良くなった。

さあ、今日は何をしようか。






「トロールってそんなに厄介なの?」


宿を出て、適当な食堂で朝食を取る。


確かに危険な敵だとは思った。

しかし、やりようはある相手だ。


状況を作りながら相手をすれば勝てる。


「剣に恵まれたな」


そう言って、腰に下げていた私の剣に目を落とした。


「最初の一撃、前のショートソードだったら、肩で止まってたんじゃないか」


そうだろうか?

あらためて戦った時をイメージする。


一瞬ではあっても、確かにまるで小人の革鎧に斬りつけたような抵抗を感じなかっただろうか。


そうかもしれない。

固い肌。

回復力を秘めた体力。

今回はそれを発揮される前に片付けてしまった。


「トロールにやられる奴のパターンはな」


口にした物を飲み込んでから続ける。


「突いたり斬りつけた時に捕まる。捕まってしまえばそれでおしまいさ」


ソーセージにフォークを刺す。

そこにナイフを突き入れた。

ソーセージはまっぷたつになった。


「少しくらいのダメージなんてトロールは気にしない。どうせ治るんだからな。打てばカウンターが来る。分かっていても、倒すには打ち込まなければならない。その恐怖は普通の戦士には難しいのさ」


誰かさんは迷わず打ち込んだから、斬れたってのもあるだろう。

ソーセージを口に放る。


「もしも、あの時、肩で刃が止まってたら、こん棒で一撃されてそれで終わってたんじゃないか」

「そうね。そうかもね」


スルゲリは簡単に斬り掛かるな、とは言わなかった。

この剣と私なら大丈夫だろうと思っていたのだろうか。


「私が死ぬとは思わなかったの?」

「その時は俺も後を追ったかな?」


おどけて言う。


そう。


私も簡単に返して残りのパンを口に放り込んだ。






気乗りはしなかったものの、ギルドに顔を出した。

私は剣を探しに行こうと言ったのに、スルゲリはまずはギルドだな、と言って譲らなかった。

約束したろう?

そう言われても、私は約束をしたつもりは無い。


ギルドに入ると、最初に感謝状なる物を渡された。


「何?これ?」

「ギルドを代表してここにこれを評します」

「あなた、ギルドの代表だったの?」

「そこはどうでも良いじゃんかよー」


要はトロールを討伐したから、ランクを上げるね、だから難しい仕事を頑張ってねって事だった。


「私はそういうのはどうでも良いんだけれど」

「まあ、そう言いなさんなって。トロールの蛮族なんてやばいのが街の近くまで来てたって知れ渡って、今、大騒ぎだよ。3年前に出た時なんて他の街に救援を出そうかなんて話まで出たくらいだったし」


まれに出るという蛮族の中でもトロールはさらにまれ、という事だろうか?

それにしても、私はこの街の住人ではない。

そう言われてもどうでも良いままだった。

それに騒いでいるのはこのギルドの周辺だけだろう。

食堂では何も言われなかった。


「私が今ここに居るのはたまたまなんだから、あてにされても困るわ」

「え?そうなの?」

「お嬢さんはここからずっと行った辺境に住んでるんだよ」

「そうかー。人外魔境で力を磨いて来たのね」


人の故郷に変なイメージを付けないでもらいたい。


「しかし、今、離れられるのは困るって!せめてコイツだけでも何とかならない!?」


そう言って、1枚の紹介状を差し出した。

手作りの弓矢

スルゲリのナイフ

橋のトロワ

左:銅革の小手 右:布革の小手

鹿革の粗いベスト

牛革のベルト

木の靴

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