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空の青と海の蒼

作者: ハギ

少年はずっと伝説を信じていた。少年が住んでいる村に古くから語り継がれている伝説。


“海人死す時、海は闇でも光り輝く蒼となる”


「また海見てるのか?空」

空と呼ばれた少年は言う。

「うん!今日こそ海が光るの見るんだ!!」

「ふ〜ん、そう」

抜けた声の後、声の主はその場を去った。それでも少年は海を見続ける。

少年の名前は空。エメラルドグリーンの海に面した孤島の小さな村に住む、ごく普通の少年。空の村には古くから語り継がれている言い伝えがあった。


“海人死す時、海は闇でも光り輝く蒼となる”


空はこの言い伝えを、村で最も高齢の老婆から聞いた。

「ずぅっと前のこと、私がまだ小さな子供だった頃に、たった一度だけ昼も夜も海が青く光ることがあったよ。きれいじゃったよ、今でもはっきり覚えとる」

この話を聞いてから、空はずっと海を見続けてきた。しかし、まだ一度も青く光る海を見たことはなかった。

そして、ある晴れた日にそれは起きた。


いつも通りに日が高くなった時間に、空は家を出た。いつも空は小さな岬のような場所で海を見ていた。そこは視界いっぱいに海が見える、空のお気に入りの場所。いつものように砂浜に出て、とんがり岩の下をまわって、もうすぐで…。


       …ん!?


空の目に、揺れる金色が見えた。

いつもは見ないなぁ、と思いながら空は金色に近付く。

「わっ!あっ!?」

空が見た揺れる金色は、波に揺られる金髪だった。

「たっ、大変だっ!!」

駆け寄った空の瞳に端正な顔立ちの見慣れない女性がうつる。年は空よりも4、5歳は上だろうか。瞼が閉じているので瞳の色はわからないが、きれいな色なのだろうと簡単に想像できる。


―パチッ


ゆっくりと瞳が姿を現した。予想以上にそれは美しく、深い碧眼だった。青い瞳は不思議そうに空を見る。

「えっ…と、大丈夫、ですか?あ、言葉、わかる?」

碧眼の女性から返事はない。

「あ、あの…」

「大丈夫です。ありがとう」

くもりのない、澄んだ声。その声に一瞬空は我を忘れた。

「…い、いえ!た、立てますか?」

空は恐る恐る手を差し伸べる。

「やってみるね」

女性は空の手をとり、立ち上がった。彼女の手から、空の手にほとんどない温もりが伝わる。

「ちょっとまだふらつくね」

微かに笑う女性の顔を見て、空は下をむいた。

「あ、あの、手…」

女性の手は、本当に冷たかった。

「まだちょっと冷たいけど、もう暖かいの。あなたのおかげね」

微笑む女性に空は意を決して言う。

「あ!あの!まだ、大丈夫じゃないみたい、だから、う、家で休んで」

最後の方はかすれるような声になってしまった。

「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうね」

その言葉を聞くと、途端に空は表情を明るくした。

「じゃあ行こう!!こっちだよ!」

空より少し背の高い女性の手を引く。

「あなた、名前は?」

「そ、空!空だよ!」

「私はリリィ。よろしくね、空」

まただ。空の心臓は飛び出しそうになる程高鳴っていた。

「こ、こっち!」

やがて空の家がふたりの前に姿を現す。

「ちょっと待ってて!」

そう言うと空は家の中に入っていく。しばらくして家の中から空と妙齢の女性が出てきた。

「さぁどうぞ、中でゆっくりして下さい」

妙齢の女性が言う。

「ど、どうぞ!」

「ふふっ、ありがとう」

リリィは決して広いとは言えない部屋に案内された。中にはベッドと机しかない。

「ここ、僕の部屋だから、休んでて。なにかほしいものある?」

「じゃあ、お水もらえるかな?」

それを聞くと、空はドタバタ足音を立てながら部屋から姿を消した。



「ふぅっ、ありがとう」

リリィは何も入っていないコップを空に渡した。

「あ、あの、お姉ちゃんは外国の人なの?」

リリィは金髪と碧眼の持ち主だが、顔立ちは見た目では外国人か判断できない。

「リリィって呼んでいいよ。う〜ん、多分そうなるかな」

難しそうな表情でリリィは曖昧な返事を返した。

「ねぇ、空君はどうしてあんなところにいたの?」

空の瞳に輝きが増した。

「えっとね、…」

そして空は村に伝わる伝説のこと、自分はそれを信じて毎日海を見ていることを話した。

リリィはそれを楽しそうに聞いているように見えたが、時折見せる悲しそうな表情を空が気付くことはなかった。



日が赤みを見せる頃、二人は海に出かけた。空はいつもいる場所に、リリィを連れて行った。

「ここでいつも見てるんだ。僕の一番好きな場所だよ」

海面がオレンジ色の太陽を揺らして映す。

「きれい…」

空はリリィを少し見上げる。空にはこの景色より何倍もリリィの方が美しく思えた。

「もうちょっとここにいよっか」

リリィの提案に空は了解する。二人は近くの砂浜に座った。

「空君はお母さんと二人で暮らしてるの?」

空は首を横に振る。

「あの人、本当のお母さんじゃないんだ。お父さんもお母さんも、ちょっと前に死んじゃったから」

「そう、ごめんね」

立ち上がった空は言う。

「でもね、今は悲しくないんだ」

そしてリリィの前に座り直した。

「家に帰れば誰かいるし、友達もたくさんいるんだ!それに…」

「それに?」

「今は、リリィもいるから」

リリィの大きな瞳は驚きを隠しきれていない。

「リリィのお父さんとお母さんは?」

空は自分の言葉を後悔した。笑っているけど、どこまでも深い悲しいリリィの表情を見てしまったからである。

「…私の両親は、いないの。ずっと、私がいたところは私だけで、誰もいなかったの」

そんなリリィの状況を空は到底理解できなかった。

「誰も?」

「…うん」

「友達も?」

「…そう」

空は一生懸命に言葉を探していた。

「じゃあ僕がリリィの最初の友達だね!」

「…えっ!?」

「僕がリリィの友達になってあげる!もうリリィは一人じゃないよ!困った時は僕が助けてあげる!」

今度は空が驚きの表情を浮かべる。リリィは、その瞳から涙を流していた。

「リリィ?」

「…ありがとう、空」

「…ううん、どういたしまして」

その時、空にはなにが起こったのかわからなかった。気付いた時には、リリィの温もりを全身で感じていた。

「リ、リリィ!?」

「…ごめんね、ちょっとだけこのままでいさせて」

「うん…」

まるで子供のような、彼女のわがままだった。



日が落ち、闇の時間となっても、二人はまだ砂浜にいた。聞こえるのはさざ波の音だけ。二人の距離は、ほとんどなかった。空の肩には、ちょこんとリリィの頭が乗っている。

「そろそろ帰ろうよ」

空がゆっくり立ち上がる。しかし、リリィは動こうとはしなかった。

「リリィ?また明日にしよう」

「…明日は、ないの」

「えっ!?」

空には意味が理解できなかった。



   “お別れです”



空はまだ混乱している。

「お別れって…?」

「ごめんなさい…空。私は、今日、…死んでしまうの」

リリィの優しい声とは裏腹に、言葉は残酷だった。

「…いやだ」

「…空」

「いやだよ!せっかく友達になれたのに!どうして!?」

よく見ててね、と言うとリリィから足が消え、その形が変わっていった。

「!!」

その光景に空は言葉を飲む。

「隠していてごめんなさい。私は…」



    “人魚です”



そしてリリィは、ゆっくりと話し始めた。

「人魚は、私が生まれた時にはほぼ絶滅していました。私はずっと一人で、悲しくて、もう少しで死ぬとわかってからは、いつも泣いていました。でも、そんな時にあなたを見たの」

空は涙を溜めた目でリリィを見つめた。

「あなただけは、ずっと海を、私を見ている。そうじゃないってわかっていても、それが嬉しかった。だから、あなたに会いに行ったの。人間になれば、一日で死んでしまうけどね」

リリィは空を抱き寄せた。

「リリィ…」

「ありがとう、空。お礼に、あなたの夢、叶えてあげる」

リリィの言葉に反応するかのように、海はその色を光り輝く蒼へと変えた。

「すごい…」

「これはね、私たち人魚が死ぬ時に、海からもらったエネルギーを返す時だけ輝くの」

暗黒の中で、星空のように海が輝いている。

「空」

振り向いた空に、リリィはキスをする。

「あなたに会えてよかった」

そして最後の人魚は、風にのる砂のようになりながら、消えていった。

「空!!海が光ってるぞ!!」

リリィは砂浜の砂となったのか、それとも星になったのか、あるいは海に帰ったのか。満天の星空と光る海の中で、空は思う。


リリィ、僕はここにいるよ。ずっと…。


いかがでしたでしょうか?個人的にはうまく書けたと思います。感想・評価の方もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても良いお話ですね。 少し端折っている部分もありますが、最後はホントに感動しました。 これからも頑張って下さい。
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