side.D
「卒業したのに来たのか、お前。えらいやつだなぁ。」
開口一番、社会科資料室に入った私に先生は言ってきた。
校舎の2階にある資料室から見える校庭の葉桜を見ながら
「先生がいけないんですよぉ。卒業式に来ないんだから。」
とふてくされて言った私に先生は苦笑しながら答える。
「ちょうど親友の結婚式だったからな。」
「ふーん。好きだったんだ、その人の事。」
さらりと返す私に対し、
「なっ!」と先生は慌てる。
それじゃ、肯定しているようなもんですよ・・・先生。
「ただの勘です。」
「ほんとにお前の勘は当たるからな。」
「じゃあ当たりなんですね。」にっこり笑う。
「う・・・、ああ、そうだったよ。」もはや開き直って言った先生に、思わずくすりと笑ってしまった。
「普通笑うかぁ?そこで。
それにしても、お前の勘はすごいよな。勘のおかげで学校受かったようなもんだし。」
「これでも少しは勉強しました。確かにセンター様様ですケド♪」
「お前より頑張って勉強してたやつより結局良い所受かったもんな。」
珍しいものでも見るような目を向けてくる先生に「確かにそうだよな~」とのんきに思う。でもね、先生。かなり勘は良い方ですけど、先生の事なら勘じゃなくてもわかりますよ。なーんて、ね。
中学に入学してすぐ、先生に片思いをした。初めは、なんてことない一目ぼれ。でも、先生に関わるたびに、話をするたびにもっともっと好きになった。
「先生。」
「ん?」コーヒーを片手にこっちを見てくる。
「先生。
・・・・・・・・・先生、好きです。」
先生ははっとしたように見てきたが、私の真剣な表情に持っていたコーヒーを机に置いてじっと目を合わせてきた。真剣な話をするときの先生の癖だ。
「お前はまだ若い。」
「先生はもうおじさんだね。」
私の切りかえしに髪を掻き上げてから再び口を開いた。
「俺には一生大事な奴がいる。」
「知ってます。」
「お前は・・・」
「それでも私は先生が好きなんです。
大事に思っている人がいる先生が、私は好きなんです。」
「・・・・・・そうか。」
静かに先生はそう言った。
真剣に答えてくれる、そんなところも好きなんですよ。
「来週の土曜なら空いている。」
急な先生の言葉に、
「デートってことですか!」思わず目を丸くする。
「お前次第だな。」軽く笑った先生に、一足遅い春の訪れを感じた。
完結です。
4人の人物の名前は敢えてださないことにしました。
最後まで読んでいただけたら幸いです。