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side.C


控室に入ってきたこの人の緊張の解けた表情を見て、彼と話してきたことを悟った。


彼とは大学に入学してから、そしてこの人と付き合い始めてから幾度も会う機会があった。初めて会った時、一見無愛想に見えた彼はこの人に会うなり、陽気に笑った。それはこの人も同様で。この人にとって彼が大事な人だと知ったのもそれが最初だった。

この人が彼の事を普通の友人以上に『好き』なのだと気付いたのは付き合い始めてから1年も経った頃だろうか。

父親が突然亡くなって放心していたこの人のもとに彼がやってきて、名前を呼んだのを聞いた。会う時は決まって「お前」と呼んでいた彼の、この人の名前を言うのを聞いた初めての瞬間だった。そして、彼が名前を呼んで初めてこの人は泣いた。小さい子のようにしゃくり上げながら。私には彼に泣かせてあげることもできなかったのだと、そう感じた。その日、結局私はこの人と彼の間に立ち入ることは出来ず、ただ、その場で彼らを見ていることしかできなかった。

その時わかったのだ。この人にとって彼は友人以上なのだろうと。

そして彼にとっても同様なのだろうと。

私は彼等の関係に『不変』を見た気がした。


ふと窓の外を見る。一際強い風で桜の花びらが舞いあがった。

知らず、私の口元が緩む。

その様子を見て、この人が私に声を掛けてきた。

「これからよろしくね、奥さん」

私も返す。

「これからよろしくね、旦那さん」

不変でなくて良い。

だって私は今、この人を愛しているのだから。


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