三人の孤児の中から聖女が生まれると言われましたが、選ばれなかった私が“本物”でした
フクシア神教国では、聖女になることは最高の誉れとされている。
聖女。神に愛され、奇跡を起こし、人々を救う存在。
それは誰もが憧れる、特別な「存在」だった。
――そして、私には関係のない話だと思っていた。
十数年前。
「この子たちの中から、一人は聖女になるでしょう」
そう予言者に告げられた日、私たちの運命は決まった。
孤児だった三人の少女。
長女カヤ、次女ルリア、そして三女の私、ケイト。
私たちを引き取った養父母は、目を輝かせていた。
家から聖女が出る。
それは一族にとって、この上ない名誉だったからだ。
長ずるにつれ、養父母の評価は固まってきた。
「カヤかしらね。あの子は明るいし、人に好かれるもの」
「ルリアも賢いわ。きっと立派な聖女になる」
二人は、すぐに養父母と周囲の期待を集めた。
社交的で、誰にでも優しく、友人も多い。
異性からも人気があり、教会の者たちからも目をかけられる存在。
――まるで、“聖女らしい”少女たち。
対して私は。
「ケイト? あの子は……まあ、静かでいい子ね」
それだけだった。
人と話すのは得意じゃない。
一人でいるほうが落ち着く。
本を読んだり、庭で花を見ているほうが好きだった。
「あなたも少しは見習いなさい」
何度も言われた。
「そのままじゃ、聖女どころか、何にもなれないわよ」
――何にもなれない。
その言葉は、静かに胸に残った。
けれど。
私は、聖女というものが何なのか、よくわからなかった。
ただ。
困っている人がいたら、助けたいと思う。
それだけだった。
ある日、
「いてて、ヘマをした」
1人の少年がケガをしてしまったので、教会にいる治癒士の所へケガを癒しに来た。
私はよく教会の奉仕活動をしていたのでたまたま出くわした。
「なんだ、君か。君には用はない。治癒士様を呼んできてくれないか。あ〜あ、聖女様がいれば、こんなケガあっという間なのにな」
知ってる。
この少年はお姉さまの取り巻きの一人。
いつも、予言の聖女様はきっとあなたですよ、と言ってチヤホヤしていた。
聖女になり、その聖女を守る聖騎士になるには、聖女からの指名が必要。
だから、みな、必死でご機嫌をとっている。
私はいつも聖女とは、不思議な職業だなと思って聞いていた。
ある日。
神殿で、大きな儀式が開かれた。
高位神官、そして王族までもが集まる、重要な日。
その最中――
「……っ、殿下!?」
悲鳴が上がった。
一人の少年が、倒れていた。
フクシア神教国第二王子である。
顔色は青白く、息は浅い。
誰が見ても、ただ事ではない状態だった。
「治癒を!」
神官たちが叫ぶ。
真っ先に動いたのは、カヤだった。
「私がやります!」
光が灯る。
けれど――
「……だ、だめ……! 反応がない……!」
続いてルリア。
「落ち着いて……必ず助けるわ!」
しかし。
「そんな……どうして……!」
どちらの魔法も、届かない。
場は、ざわめきから、静かな絶望へと変わっていった。
「もう……手の施しようが……」
誰かが、そう呟いた。
その時だった。
私は、気づいたら前に出ていた。
「……あの」
誰も、私を見ていなかった。
いや、見ていたけれど誰も期待していなかった。
「あなたなんかに何も出来るわけないでしょう!引っ込んでなさいよ!」
カヤがヒステリックに叫ぶ。
それでも構わなかった。
ただ、思った。
――助かってほしい。
その人の手に、そっと触れる。
何かをした、という感覚はない。
ただ、強く願っただけだった。
次の瞬間。
淡い光が、静かに広がった。
優しく、温かい光。
それが、少年を包み込む。
「……っ!?」
誰かが息を呑む。
少年の呼吸が、整っていく。
青白かった顔に、血色が戻る。
そして――
「……あれ……?」
ゆっくりと、目を開けた。
沈黙。
そして、一斉にざわめきが爆発する。
「な、何が……!」
「今のは……奇跡……?」
カヤとルリアは、言葉を失っていた。
私はただ。
「……よかった」
それだけだった。
その時。
一人の神官が、私をじっと見ていた。
深く、確信するような眼差しで。
「……この子を、教会へ」
静かに、そう言った。
数日後。
私は、神殿へ向かっていた。
理由は、よくわからない。
ただ「来なさい」と言われて、ついてきただけだった。
大きな扉の前で、足が止まる。
少しだけ、不安になる。
そのとき。
「――安心なさい」
優しい声がした。
「あなたは、聖女の神、聖処女神エリューシオン様に選ばれたのです」
私は、その意味を知らなかった。
扉が、ゆっくりと開く。
光が差し込む。
その日。
私は初めて、“聖女”という言葉を知ることになった。
その後。
正式に聖女となった私に養父母は微妙な視線を向ける。
町の少年も声をかけたくてもかけられない。
お姉様たち、カヤとルリアは、涙目で睨んでいる。
がその横には、取り巻きはいなかった。
第二王子が私の前へ進み出た。
「君には命を救われた。もともと体が弱かったのだが、君に助けられていないどんどん健康になった君への恩返しに君の聖騎士として立候補したい」
以前より精悍な顔つきで私を見据える。
だけど、
「お気持ちはうれしいですが、私に聖騎士は必要ありません」
「誰かを聖騎士にするため、ではなく、誰かを救うために私は聖女になるのですから」
その言葉に誰も何も言い返せなかった。
私は一礼をして、街を去る。
本山で本格的な修行をするため。
そして聖女として多くの人々を救うのだ。
あとがき
修行を終えた聖女ケイトの活躍の続きは、シリーズ本編第2作目「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です2」の第2部、で見られます。気になった方はぜひご一読ください。




