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勇者パーティーの背景係  作者: 真咲


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28話 微かに残るざわめき

 あの戦いの後、遠征隊は小さな安息地にたどり着いた。焚き火の赤い光が夜の闇に揺れ、冷たい風が肌を刺す。

 枝の擦れる音、草の香り、土の匂い――戦場の残像が、まだ空気に混ざっている。

 

 私は荷物の整理を続ける。手は震え、指先が小刻みに動くたび、胸の奥のざわめきが小さく波打つ。

 今日見た光景が、頭から離れない。進行を妨げた倒木の道、魔物の襲撃、倒れた兵士たち――そのすべてが、体を重くする。


 そして、何よりもあの声。

 ――逸脱率、上昇

 耳に響いた感覚を、私はまだ忘れられない。風のざわめきと混ざり、誰もいないはずの空間から聞こえた、冷たい、でも意味のある音。


「逸脱……だから、修正されるの……?」


 問いかけるように小さく呟くと、静かな足音が近づいた。

 焚き火の反対側に、ノアさんが腰を下ろす。火の光に照らされる彼の姿は、戦場の異変を読み取った冷静さを帯びている。


「リナ、少し話をしよう」

 

 小さく息を吸い、震える声で答える。

 

「……はい」


 ノアさんは手帳を広げ、ペンを握った。今日の出来事を記録するのだろう。

 焚き火の光が揺れるたび、彼の表情が柔らかく変わるのが見える。私は荷袋を抱き締め、指先の震えを確かめながら言葉を絞り出す。


「私は……ただ、見ていただけです。止まった道……倒れた兵士たち……なのに何もできなくて……」

 

 言葉に詰まる。胸の奥の重さを、どうしても言葉にできない。指先の震えが、わずかに自分の存在を確かめさせる。


「それに……世界が、いつもと違って見えました。アルトさんもエリシアさんも無傷で、でも私には目も向けず……端に押しやられている感じがしました」


 ノアさんは眉をひそめることなく静かにうなずいた。焚き火の赤い光が揺れ、彼の瞳に戦場の緊張が映る。

 

「異変は確かに起きている。中心を守る力は働き、犠牲は出た。だが、端にいる者の感覚も、次の流れを読む手がかりになる」


 指先の震えを感じる。胸のざわめきは消えない。

 世界は中心だけでなく、自分の存在すら見ているのかもしれない――そんな予感が胸を刺す。


「でも、何も……できなかった」


 ノアさんはゆっくりと視線をこちらに向け、低く、でも確かな声で言った。

 

「できなかったなんてことはない。君が見て、感じて、覚えていること。それだけで十分意味がある。次に生かせるかどうかは、今ここで判断することじゃない」


 ぎゅっと荷袋を抱き締め直し、震える手を確かめる。指先から伝わる感触だけが、私がまだここにいる証明になる。

 焚き火の光が揺れるたび、倒れた兵士たちの姿が胸に焼き付く。


 頭の片隅で、微かにあの声が再び響いたような気がした。


――逸脱率、許容範囲内まで下降

 

 世界はひとまず収束し、秩序を取り戻そうとしている。

 けれど、その冷たさと犠牲の残像は、胸の奥にまだ重く残る。ノアさんは言葉少なに私を見守り、その存在だけがわずかにざわめきを鎮めた。

 

 私は荷袋を抱いたまま、じっと焚き火を見つめる。火の揺らぎの中で、倒れた兵士たちの影がふと揺れるように感じる。

 けれど、これももう自分の目の前の世界だ。自分は端に置かれた存在であり、それでも見て、感じ、覚えることで次に生き延びる手がかりを持てる――そう思いながら、静かに息を整えた。

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