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勇者パーティーの背景係  作者: 真咲


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24/29

24話 微かな秩序

 遠征隊は森を抜け、丘を下りて平地へ差し掛かった。

 木漏れ日が馬車や影を細く伸ばす。視界は明るいのに、空気はわずかに重く、張り詰めている。


 私は補給馬車の側で荷物を整える。

 乾燥肉、保存パン、水筒。補給袋の紐の緩みがないか確認し、並びを整える。

 誰も褒めない。誰も気づかない。それでも、この秩序があるから、少なくとも誰かが困らない。


 前方、アルトさんの姿が目に入る。

 剣を背に、冷静に周囲を見渡している。戦場に巻き込まれる瞬間も、今日の彼には危険はない。

 世界が彼を――勇者を守る。それは紛れもない事実だ。


 そのとき、彼の低い声が聞こえた。


 「……いつもより、静かだ」


 言葉は小さい。無自覚に出たもののようだった。

 アルトさん自身は意図していない。けれど、胸の奥に小さなざわめきが走る。

 視界の端で兵士たちを見つめると、昨日までなら小さな事故が起きていたはずの瞬間も、今日は何事もなく通り過ぎる。

 倒れそうな兵士も、崩れる荷物もない。

 不意に発生するはずの混乱が、自然に回避されている。


 ――アルトさんは気づかず呟いただけ。

 だが、世界のわずかな流れの変化を、私は手元の秩序を通じて感知していた。


 ふと馬車の横で紐を結び直す。

 風が木々を揺らす。影が長く伸び、葉がさらさらと囁く。

 その瞬間、世界が一拍遅れて動いたように感じた。


 アルトさんの行動は変わらない。

 でも、その周囲の世界は、微かに彼の進行を滑らかにしている。

 ほんの少し、時間が揺れるかのように、出来事が正しい形へと誘導される。


「……なんだか不思議」


 小さく、誰にも聞かれない声で呟く。

 私が荷物を整えるだけで、世界は少しだけ違う。

 事故が起きるはずの場所に、兵士の足は踏み出さない。

 崩れるはずの荷物も、何事もなかったかのように安定している。


 アルトさんは前方で馬を進めるだけ。

 私は補給班として荷物を整えるだけ。


 ――それでも、この微かな秩序の差は、世界の流れに影響している。

 偶然か、必然かは分からない。

 だが、胸の奥で確かに感じる。


 世界は今日も、勇者を守りながら、ほんの少しだけ、私の存在を取り込んでいる。

 私は黙々と作業を続ける。

 それだけで十分だ。

 世界の正しさが、ほんのわずかに私の手に触れたことを、胸に刻んだ。


 風が丘を滑り、馬車の影を揺らす。

 遠くの鳥の声が森の中へ消えていく。

 けれど、いつもより静かであること。

 そして、何事もなく整う秩序の感触は、確かにここにある。


 世界は私を知っているわけではない。

 ただ、少しだけ、手元の秩序に応じて動いた。

 小さな存在が、気づかぬうちに、勇者の道を滑らかにしていたのだ。

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