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勇者パーティーの背景係  作者: 真咲


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2話 背景係の仕事

 今日は魔王討伐に向けて、勇者パーティーの顔合わせがあるらしい。

 らしい、というのも私はそこに含まれていないので、当然ながら呼ばれていないからだ。


 召喚された勇者、アルト・レイン。

 そしてこちらも召喚された聖女、エリシア・ルミナ。

 最後にこの世界から選ばれた賢者、ノア・ヴェルグ。


 勇者パーティーとして魔王を倒しに行くメインの三人だ。

 後は、私みたいな補給係だったり、予備戦力としての兵士も着いていくけれどあくまでオマケ。モブでしかない。


 なので私は炊事場の裏で鍋を磨きながら、人々の噂話に耳を傾けていただけだ。

 曰く、この国の作った魔法陣というものは中々優秀らしく、適正持ちの人間を国籍も時代も関係なく召喚するのだそうだ。

 じゃあ、なぜ適性のない私も? と思わなくもなかったが、どんなに便利なものでもやっぱり不具合はあるのだろうと、一旦心を落ち着かせることにする。


 あの後、神官さんから渡された紙には、私の役割がはっきり書かれていた。


 ――勇者随行補給係。

 仕事内容:

 ・物資管理

 ・食事準備補助

 ・装備整備

 ・雑務全般

 

「雑務全般って便利な言葉だなあ……」


 そんなことを考えつつも、鍋をぴかぴかに磨き終えた私は次の仕事を探そうと考えていた。


「ああ、君……ええと、」

「リナです」


 そこへちょうど厨房のチーフが近づいてきた。

 当然ながら名前は覚えられていないが、気にせず簡単に名乗るに留めておく。多分また同じことが起こるけれど。


「そう、そうだ。リナさん。君は、はんばーぐとやらを知っているかい?」

「ハンバーグ、ですか?」


 こんな異世界で聞くことになるとは思っていなかった単語に首を傾げる。


「勇者様に夕餉に食べたいものをお聞きしたら、はんばーぐが食べたいと仰られたのだが、我々の中にわかる者がいなくてな……一緒に召喚された君ならわかるのではないかと」


 成程。

 勇者も随分と無茶を言ったものだ。

 だけど、それも仕方ないのかもしれない。文化も知らない異世界に来て、食べたいものを聞かれたら出てくるのは故郷の料理になるだろう。


「そうですね。それなりにはお手伝いできるかと思います」


 異世界といえど、流石にひき肉や玉ねぎがないなんてことはないだろう。

 ここで、おにぎりとみそ汁が食べたいなんて言われてでもしたら流石に無理があっただろうけど。




 翌日。

 私はまた炊事場の裏で鍋を磨いていた。

 ゴシゴシと焦げをタワシで落とすのが中々楽しいと知ったのはここ数日のことだ。


「まさか、異世界に来てやってることが鍋磨きなんてね」


 ふ、と苦笑が漏れた。

 でも、多分何もないよりマシだ。

 やることがあるのは安心する。

 

「こんなところにいたのか」

 

 声に振り返ると、勇者が立っていた。

 まだ新品みたいなマントを着ている。似合いすぎていて、少し笑いそうになる。


「あ、勇者様」

「その呼び方はやめてくれ」


 速攻でお断りされた。


「えっと……じゃあ、アルトさん?」

「それでいい」


 様付けも呼び捨ても何か違うだろうと、さん付けにしてみると、彼は少し安心した顔をした。

 勇者様、勇者様と、どこに行っても持て囃されるのも疲れるのかもしれない。


「……リナ、だっけ」


 あ、名前。

 覚えていてくれたんだ。ということに少しだけ驚愕した。

 召喚の日からずっと関わりなんてなかったのに。


「君がハンバーグのレシピを提供してくれたと聞いたんだ。そのお礼が言いたくて」


 そんなことで私をここまで探しに来たんだとしたら、ずいぶん律儀だなと思う。

 

「なんか、安心したんだ」

「え?」

「故郷から離れて、俺だけが違う世界に立ってるみたいだったから」


 言ってから、アルトさんはしまったという顔をした。


「……変なこと言ったな」

「いいえ」


 いきなり異世界に召喚されて、そんな出来事に急に順応できる人間なんていない。

 たとえそれが勇者だったとしても、故郷の料理を食べて郷愁に馳せるくらいいいじゃないか。


「多分、それが普通なんだと思います」

 

 アルトさんは少し黙ったあと、

 

「リナ」

 

 もう一度私の名前を呼んだ。

 

「よろしくな」

 

 真っ直ぐに差し出された手。

 一瞬だけためらって、そっと握り返す。

 その手は、少しだけ震えていた。

 


 ――勇者も、怖いんだ。

 

 その事実に、思わず胸が少しだけ温かくなる。

 緊張で硬直していた肩の力が、ふっと抜けた。

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