表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティーの背景係  作者: 真咲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/29

19話 正しすぎる世界

 夜は、異様なほど静かだった。

 

 昼間の惨事が嘘のように、遠征隊のキャンプには規則正しい寝息だけが広がっている。

 

 焚き火の火が小さく揺れる。

 私は補給班の片付けを終え、人気のない場所に腰を下ろしていた。

 

 手は動いているのに、心が追いつかない。

 

 あの事故。

 崩れるはずのない地面。

 同時に起きた故障。

 助かったはずの人の代わりに倒れていった兵士たち。

 

 偶然――で片付けるには、あまりにも出来すぎていた。

 

「眠れないのか」

 

 背後から声がした。

 振り向かなくても分かる。

 

「……ノアさん」

 

 彼はいつもの無機質な表情で、少し離れた場所に立っていた。

 けれど、その目だけは昼間から変わらず鋭いままだ。

 

「少し、いいか」

 

 私が頷くと、ノアさんは焚き火の向こう側に腰を下ろした。

 しばらく、火の弾ける音だけが続く。

 

「今日のことを、どう思った?」

 

 問いは静かだった。

 

「……事故、ですよね」

 

 言いながら、自分でも確信がないのが分かる。

 

 ノアさんはすぐには答えなかった。

 火を見つめながら、ゆっくり言葉を選ぶ。

 

「この世界は整いすぎている」

「整っている?」

「そうだ。出来事が、綺麗につながりすぎる」

 

 胸の奥が、ひやりとした。

 

「現実は本来、不規則で不格好だ」

 

 彼は小枝を火へ投げ入れる。火花が一瞬、空へ散った。

 

「偶然に助かる者もいれば、理由なく死ぬ者もいる」

 

 けれど、と彼は続ける。

 

「しかし、この世界は違う」

 

 焚き火の音がやけに大きく聞こえた。

 

「まるで――常に“正しい形”へ戻ろうとしているようだ」

 

 言葉の意味が、胸の奥に沈んでいく。

 

「今日も、ですか?」

 

 ノアさんは否定も肯定もしなかった。

 ただ、少しだけ視線をこちらへ向ける。

 

「リナ」

「はい」

「もし、自分の行動が……周囲に思わぬ影響を与えているとしたら」

 

 言葉が一度止まる。

 

「君は、それでも同じ選択をするか?」

 

 息が詰まった。

 思い出す。

 

 突然、襲いかかってきた魔物。

 何故か助かった兵士。

 そして――今日の事故で倒れた人たち。

 

「私は……」

 

 答えが出ない。

 

「責めているわけではない」

 

 口調は変わらず冷静だ。

 けれど、その言葉の端々に無自覚な気遣いの響きが届いた。

 

「むしろ逆だ」

 

 彼は空を見上げる。

 星が、やけに鮮明に瞬いていた。

 

「違和感に気づく存在がいることは、状況の観察としてとても重要だ」

「重要……?」

「ああ。この遠征にとっても。世界にとっても、な」

 

 意味を聞こうとした瞬間、ノアさんは立ち上がった。

 

「ただ、一つだけ覚えておくといい」


 彼は振り返らずに言う。

 

「過度に正しいものは、危険を孕む」

 

 風が吹き、焚き火が大きく揺れた。

 

「それが――世界であれ、人であれ」

 

 それだけ言って、ノアさんは闇の中へ歩いていった。

 

 私はしばらく動けなかった。

 胸の奥に残った言葉が、静かに広がっていく。

 

 ――正しすぎる世界。

 

 昼間の光景がよみがえる。

 助かった命と、失われた命。

 

 偶然なのか。

 それとも。

 

 焚き火の火が小さくなる。私はそっと薪をくべた。

 

 消えないように。

 消えてしまわないように。

 

 それが何を意味するのか、自分でもまだ分からないまま――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ